演出家の蜷川幸雄さん =2008年1月
熱気を放ちながら、演劇に魂ごとぶつかった。80年の生涯を駆け抜け、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さん。蜷川さんの演劇は五感に突き刺さり、観客の記憶の中で、きらめきとなっていつまでも消えない。俳優の大竹しのぶさん、演劇評論家の大笹吉雄さん、狂言師の野村萬斎さんが悼む。
蜷川さん、最後の10日間は「ありがとう」 通夜始まる
特集:蜷川幸雄さん逝く
■俳優 大竹しのぶさん
最後にお会いしたのは9日です。呼吸は苦しそうでしたが、声をかけたら目を開けてくださり、私は「稽古場でお待ちしています」と言いました。目の前のテーブルにはこれから演出する台本が3冊。まだ闘うぞ、演出するぞという気迫を感じました。
車いすになったとき、「俺、日常はもういいや」「僕たちはさ、結局、劇場でしか生きられないんだよね」とも。全エネルギーを演劇に注いでいたすごい方でした。
「俺はこうしたい」「これを発信するんだ」という思いをいつも稽古場で叫んでいました。今もその声が聞こえてきます。私たちも、蜷川さんと同じ熱を持たないと稽古場にはいられません。すごいエネルギーの塊、火山みたいなものをいつも爆発させていて、私はそこに飛び込んでいくのが好きでした。稽古場で集中して4、5時間一緒に稽古することがうれしくて。「これで今日も愛し合えた」。変な言い方ですが、私はいつもそう思っていました。