熊本地震について話す姜尚中さん=14日午後、熊本市中央区、筋野健太撮影
震度7の揺れが2度襲った熊本地震の発生から1カ月余りが過ぎた。熊本県内では9千人近くがいまだに避難生活を強いられ、余震も絶えない。被災者の心境は、大規模災害に備えるには――。熊本市出身の政治学者で、熊本県立劇場館長の姜尚中さん(65)に聞いた。
特集:熊本地震 ライフライン情報など
特集:あなたの街の揺れやすさを住所でチェック
熊本地震 災害時の生活情報
――4月14日夜、熊本市内のホテルで激しい揺れに襲われたそうですね。
ホテルの10階でうたた寝をしていて突然、大砲の弾が壁に炸裂(さくれつ)したようだった。一瞬、東京のホテルにいると勘違いし、直下型地震が起きてもうだめだと思った。部屋の壁に亀裂が入ったが幸いドアは開けられ、荷物を手に非常階段を下りた。何度も何度も、しつこい揺れが続いた。
――被災者は絶えない余震におびえています。
震災が続くなかで、生活の再建をせざるを得ない。最初の1カ月はしびれるような恐怖感。いまは不安感が増殖する時期で、恐怖感も残る。ここから少しずつ心がなえる。生き延びるための騒然とした状況から、一つひとつ具体的な課題に直面せざるをえない。お金、雇用、教育、生きる場所……。生きるための気力がなえてしまう人が出てくるかもしれない。
――災害対応の課題も浮き彫りになりました。
初動の段階で物資が行き渡らなかったと聞く。個々の自治体、行政の問題というより、九州自体が準備不足だった。福岡や佐賀の鳥栖に拠点を作り、国のプッシュ型の支援物資を集積して小分けし、被災地の自治体は配るだけに専念する。そうすれば早期に物資が行き渡ったのではないか。
――文化施設も深刻な被害を受けました。
熊本市民会館が打撃を受け、県立劇場も外壁が壊され休館を余儀なくされている。文化施設は後回しにされがちだが、熊本城の一帯に県立劇場も含め文化施設の集積が必要なのではないか。県立劇場としては、できるだけ早く開館にこぎつけ、夏には盆踊りをしたい。つかの間でもいい。潤いのある時間を過ごしてもらいたい。地震の影響が気になる子どもたちを対象にしたパフォーマンスもやりたい。
――災害に立ち向かう県や国のあり方も問われます。
熊本がどうなるかは、九州がどうなるかに直結している。「ミニEU構想」を広げたらどうか。上からの道州制ではなく、身近なコミュニティーを大切にし、県境を越えて結びつく。安全ネットワークづくりを進め、災害、交通、物流、教育、観光の相互依存関係をもっと深めていくべきだ。
九州という枠組みでファンドを作り、国からの資金援助をプールし、県境をまたいだ激甚災害が起きた場合、そこから資源やマンパワーを融通する。
(非常時に政府の権限を強める)緊急事態条項を挙げ、災害を憲法改正にとって「もっけの幸い」とするのは許せない。熊本県民からすると、自分たちをだしに使ってほしくない気持ちがあるでしょう。
――復旧・復興をどう進めるべきでしょうか。
7千数百億円の補正予算がついたのは大きな成果だが、具体的にどう使うか。「創造的復興」のたたき台は、県と自治体が協力してつくってほしい。東日本大震災や阪神・淡路大震災でもあったように、復興の名の下に、住民にとってさほど価値のないものが作られる可能性もゼロではない。くしくも、熊本が舞台の映画「うつくしいひと」に熊本城の美しい姿が温存された。熊本が誇る「水と緑と火」が壊されていく復興は、まずありえない。(聞き手・奥正光)