ヒトラーの生家が入るオーストリア北部ブラウナウの建物=AFP時事
オーストリア内務省は27日、ナチスの独裁者ヒトラーの生家がある建物を強制収用する特別法案を議会に送ったと発表した。建物は国が所有者から借りて公共目的に使っていたが、数年前から利用方法をめぐる見解の相違で空き家状態となっており、「ネオ・ナチの聖地になりかねない」との懸念が出ていた。
ヒトラーは1889年、オーストリア北部ブラウナウに生まれ、一家は3年後にドイツに移った。生家が入る建物は1972年から、内務省が賃貸契約を結んで障害者のための施設などとして使用してきた。だが2011年から所有者が必要な建物の改修を拒否し続け、国の買い取り提案にも応じなかった。拒否の意図は分からないが、いずれネオ・ナチ関係者の手に渡るのでは、との臆測も出ていた。
ヒトラーは画家を夢見てウィーンで青春を過ごしたが、政治家に転向。総統として絶頂を極めた38年、オーストリアはナチス・ドイツに併合され「第三帝国」の一部になった。
「負の遺産」である生家は地元にとっても困った存在だ。建物の過去を示す表示はなく、手前に「二度とファシズムが起きないように」などと書かれた小さな碑が立つだけ。空き家のまま、国が高い家賃を支払っていることへの批判もあった。(ウィーン=喜田尚)