小中学生に剣道を指導する大舘和夫さん=東京都中野区上鷺宮5丁目
戦中は特攻隊員として、九死に一生を得た。戦後は警視庁の刑事になり、退職したその日から30年以上、子どもたちに剣道を教え続ける。今年で90歳になる大舘(おおだち)和夫さん=東京都中野区在住=の生涯をつづった本が今月、出版された。
「腹から声出して!」。夕方の中野区立武蔵台小学校の体育館。小中学生13人に、防具姿の大舘さんが活を入れていた。中学3年の佐藤芙紀(ふき)さん(14)は「素振りで腕が伸びているかとか、一人ひとりちゃんと見てくれる。防具を入れる袋のチャックを閉め忘れていた時など、細かいところも注意されます」。
2人の娘は嫁ぎ、8年前に妻を亡くしたため、今は一人暮らし。朝4時に起き、新聞を読んで朝食を作り、月水金の週3日は6時半から警視庁で剣道の朝稽古に励む。月水は夕方から約2時間、小中学生を指導。最も多い時は150人ほどに稽古を付けていた。
一緒に朝稽古をする元検事の太田茂さん(67)と元読売新聞記者の西嶋大美さん(67)が、そんな大舘さんにひかれて生涯を聞き取り、「ゼロ戦特攻隊から刑事へ~友への鎮魂に支えられた90年」(芙蓉〈ふよう〉書房出版)という本にまとめた。
戦争の経験はこれまで、家族など一部にしか語ってこなかった。「元特攻隊員が少なくなる中、本当の事実や、遺書を残さず亡くなった戦友たちのことを残しておかなければと思うようになった」と大舘さんは言う。