安打を放つ市和歌山の岡本尚輝=15日、阪神甲子園球場、内田光撮影
ときに高校球児たちは、思いのこもった道具とともに試合に臨む。支えてくれた仲間、夢破れた旧友、同じ目標を目指した兄――。15日の大会第9日第1試合で、日南学園(宮崎)に4―6で惜敗した市和歌山の選手3人は、それぞれ託された思いを胸に躍動した。
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捕手の岡本尚輝君(3年)は白い打撃用手袋を記録員の中川怜児君(3年)から借りていた。「怜児の分も打たなきゃ」という思いを強めてくれるからだ。
今春の選抜大会以降、思うようにボールを投げられない「イップス」に陥り、正捕手の座を外れた。同時期に選手の道は諦め「選手コーチ」としてサポート役に回った中川君に相談した。小学校から知る仲だ。
「キャッチボールしよう」。2人だけの「課題練習」が始まった。中川君は快く付き合ってくれた。徐々に送球が思うところにいくようになり、和歌山大会からレギュラーに復帰した。
「怜児の分まで、選手として戻れた自分が活躍しよう」。中川君にお願いし、手袋を借りた。和歌山大会中に破れてしまったが、必ずベンチに持ち込んだ。
左翼手の七野(しちの)怜君(3年)が振り抜いた黒いバットは近大泉州(大阪)の主将を務めた川端理人(りひと)君(3年)から託された。中学生のときの硬式野球チームでチームメートだった。
和歌山大会を制した日、近大泉州は大阪大会の準々決勝で敗れた。「おめでとう、俺の分まで楽しんで」とSNS上でメッセージが来た。川端君が4番打者として活躍したことは知っていた。一方、自分は打撃不振だった。「理人の分まで打ってくるから(バットを)託してくれへん?」とお願いした。
川端君は自分の分身が甲子園に連れて行ってもらえるみたいでうれしかった。七野君の自宅まで届けた。「このバットなら打てるで」。七野君はその場で振ってみせ、「絶対打ってくる」と約束した。
二塁手の河崎真君(3年)の黒色のフットガードとエルボーガードは、大学生の兄将(しょう)さん(20)がアルバイト代で買ってくれた。
将さんは市和歌山OB。最後の夏は初戦で智弁和歌山に敗れた。真君らは和歌山大会準々決勝でその智弁和歌山を破った。将さんは「一番思いの強かった相手を倒して甲子園にたどり着いてくれた。果たせなかった夢だからこそ頑張ってほしいという思いだった」と話した。(真田嶺、西村圭史)