富山第一の記録員中野汰一君(左)=阪神甲子園球場、小川智撮影
(15日、高校野球 広島新庄7―1富山第一)
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3年ぶり2回目出場の富山第一に、周囲から「中間管理職」と呼ばれる高校生コーチがいる。背番号のない中野汰一君(3年)は監督と選手の間に立ち、昨夏からチーム運営の重責を担った。15日の大会第9日第3試合で、中野君はベンチから声を出し続けたが、広島新庄に1―7で敗れた。
記録員としてベンチに座った中野君はユニホーム姿。「一緒に戦う」。自然と体が前のめりになった。
監督と選手の間を取り持つのが役割。監督の指示を部員にどうわかりやすく伝えるかが問われる。甲子園入りしてからの宿舎での朝食時間。黒田学監督(35)が言う。「ご飯をあまり食べない選手がいる。ちゃんと確認しろ」。食べるのが遅い選手の前に座り「(白米が)まだあるよ」と中野君。つらそうな顔を見るのは嫌だ。「板挟みになってつらい。でも、チームを良い状態にする役割は果たしたい」
甲子園でのプレーを目指し入部したが、相手の胸元に投げることもできない「イップス」になった。チームに貢献したい一心で昨夏、監督に高校生コーチを願い出た。言われたのは「一番怒られるのはお前だぞ。監督より下、主将より上という中間管理職としてチームのことを考えろ」。
昨秋の県大会は3回戦で敗退。「うまくサポートできなかった」と悔やみ、眠れない日もあった。そんな夜に読んだのが名将が著した野球本。前巨人監督の原辰徳さんや日本ハム監督の栗山英樹さんの著書など約10冊を購入。横浜の元部長小倉清一郎さん著「小倉ノート」は一番の愛読書だ。
組織論に詳しい同志社大学の太田肇教授は「高校生にとって監督は遠く絶対的な存在になりがち。学生コーチというワンクッションを置いてマネジメントしているのは良い仕組みだ」。
チームで誰よりも叱られた中間管理職。中野君は試合後、「つらいことは多かったが、監督に感謝している。ここまでやってこられたのは仲間のおかげ」と語った。(江向彩也夏、長谷川健)