大阪・国立文楽劇場の公演「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」で人形を遣う吉田文雀さん=2009年7月
精緻(せいち)かつ品格のある芸でファンを引きつけた人形浄瑠璃文楽の人形遣いで人間国宝の吉田文雀(よしだ・ぶんじゃく、本名塚本和男〈つかもと・かずお〉)さんが20日午後9時12分、心静止のため兵庫県西宮市の病院で死去した。88歳だった。通夜は23日午後7時、葬儀は24日午前11時30分から同市城ケ堀町1の40の公益社西宮山手会館で。喪主は長男宏さん。
東京生まれ。45年に文楽に入門し、名人の吉田文五郎に師事して技を磨いた。豊かな知識と役への行き届いた解釈で心情表現にたけた芸を見せ、94年に人間国宝に認定された。「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」の玉手御前、「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」の葛の葉など女形を得意にし、とりわけ「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の覚寿など老女役で高い評価を得た。一方で「菅原伝授手習鑑」の桜丸など立ち役にも定評があった。
公演ごとにどの首(かしら、人形の頭部)をどの人形に割り振るかを決める「首割(かしらわり)」の役を長年つとめ、「文楽の生き字引」として振興や普及にも貢献した。吉田和生さんら後進の育成にも力を注いだ。
近年は病気がちで休演が多く、16年3月に高齢などを理由に引退を表明して現役から退いた。最後の舞台は15年1月の大阪・国立文楽劇場の「関寺小町」だった。