カドゥム・ジャブリさん=6日、バグダッド、渡辺淳基撮影
イラクで旧フセイン政権時代を懐かしむ声が広がっている。テロの危険や宗派の分断が広がり、国際的な支援は行き届かない。米ブッシュ政権が、2001年9月11日の同時多発テロ後の「テロとの戦い」で始めたイラク戦争から13年。市民は希望を失いつつある。
バグダッド中心部のバイク修理店主、カドゥム・ジャブリさん(60)は近くのフィルドス広場を通るたびに13年前を思い出す。「なぜあんなことをしたのか。後悔してもしきれない」
2003年4月。ジャブリさんは、米軍が到達したと聞いて熱狂する群衆の先頭にいた。広場のサダム・フセイン像を支える土台にハンマーをたたきつけた。
イラク戦争は、24年間続いたフセイン政権を倒した。誰かが星条旗を掲げるのをみて、フセイン政権の恐怖が終わると喜んだ。
しかし、期待は失望に変わった。テロや武力衝突が続き、街はすさんだ。経済が一向に良くならないのは、政治家の汚職のせいだと感じる。「サダムはいなくなった。でも今は代わりに1千人のサダムがいる」
バグダッド市内で肉の路上販売をしているアメル・ジャサム・ハマドさん(42)は、日常的に緊張と不安にさいなまれている。「いつどこで爆発が起きるかもしれない。歩いていたら誘拐されたり逮捕されたりするかもしれない」
07年2月、自宅が空爆で破壊された。ハマドさんの家に武装勢力がいるという情報を元に米軍が空爆したとのうわさがあった。米軍に補償を求めたが取り合ってくれなかった。
食肉工場で働いていたが工場が閉鎖されて11年に路上販売を始めた。しかし、無許可のために市職員からは「店を撤去するぞ」と脅され賄賂を要求された。13年9月には、同名の指名手配テロリストと間違われて逮捕され、1年半刑務所に入れられた。
「サダム時代は独裁だったが、夜でも家族と自由に出歩けた。今の政府には何も期待しない。ただ平穏に、安全に暮らしたい」
フセイン政権崩壊後は、少数派…