10月1日開店に向け、各店で準備が進む。右側の道が2・5メートルから4メートルに広がった=大阪市淀川区
阪急十三(じゅうそう)駅(大阪市淀川区)前の飲食店街(通称・ションベン横丁)で起きた火災から2年半。跡地での再建がほぼ終わり、10月1日に多くの飲食店が再開する「街開き」を迎える。「生まれ育った場所に戻りたい」「若い頃飲み歩いた十三を応援したい」。店主らはそれぞれの思いを胸に新たなスタートを切る。
「やっとふるさとに帰れるんやな」。10月1日に営業を再開する焼き肉店「請来軒(ちんらいけん)」の店主、藤井正人さん(48)は感慨深げだ。
飲食店街は、東側の幅約2・5メートルの私道が、建築基準法の規定に基づき、4メートルに広げられた。昔は古い木造の建物がひしめいていたが、今は白や黒、クリーム色の外壁の2~3階建て約20棟が連なる。街の外観は大きく変わった。
請来軒は1961年から続く老舗。藤井さんが小学校に上がるまで2階の宴会場が寝室だった。まさに生まれ育った場所だけに、街が様変わりしても、思い入れの強さは揺るがない。
火災当日、「うちだけは助かっているやろ」と思いながら自転車で現場に駆けつけると、店は激しく燃えていた。翌日、がれきの上にぽつんと、タレを入れる小皿が1枚残っていた。少しすすけていたが、原形をとどめていた。母登喜子さん(76)が自分で選んで昔から使ってきたもので、泣いて喜んだ。藤井さんも「これを見て頑張らんといかんな」と思ったという。
「店をやらないと生活できない」。火災を機に父に代わって店主となり、2カ月半後に以前の場所から南西約200メートルのところに、店を開いた。客入りは順調だったが、「元にいた場所でやりたい」との思いが強かった。迷った末に昨夏、駅前に戻ることを決めた。
新店は元の店から20メートルほど離れた、横丁の跡地に立つビルの3階に構える。「以前の風情は、あの日で終わり。これからスタートする各店で頑張り、新しい街をつくっていきたい」
火災前と、全く同じ場所で店を開くのが「十三トリス」。サントリーのハイボールを飲ませるバーとして1956年に創業し、多くのサラリーマンやカップルたちに愛されてきた。故・ミヤコ蝶々さんが出演した映画の撮影場所として使われたこともある。
マスターの江川栄治さん(66…