「熊本地震」の検索数の推移
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熊本地震の発生から14日で半年になる。この間にインターネットで検索された語句を検索大手ヤフーが分析したところ、「熊本地震」と入力して検索した回数の減少傾向が、被災地の熊本と全国とでは大きく異なっていた。専門家は「『風化』のプロセスの違いが表れている」と指摘する。
特集:検索データが語る熊本地震6カ月
熊本地震は今年4月14日午後9時26分に発生し、熊本県益城町で震度7を観測した。16日午前1時25分にはマグニチュード7・3の「本震」があり、同町などで再び震度7を観測した。
データは発生直後から今月までの半年間、ヤフーで検索された語句を熊本県と全国とで比較した。双方ともピーク時の検索数を100とし、それぞれピーク時に対する割合で表した。
益城町の役場前から続く道。がれきが今も横たわっている=10月11日、熊本県益城町、平井良和撮影
■全国では1週間後の週末に急減
【熊本地震】
こう入力した検索数は、全国でのピークはマグニチュード7・3の本震から3日後の4月19日だった。震度5以上の余震が2度、熊本を襲った日だ。
ところが、本震から1週間後の週末に急激に落ち込み、土曜日の23日にはピーク時の46・8%と半分を割り込んだ。この週末には、23日に北朝鮮がミサイルを日本海上で発射。24日には北海道と京都で与野党対決構図の衆院補選が実施された。
その後も20~30%で推移したが、大型連休が明けた5月20日にピーク時の20%を切ると、それ以降は20%台を上回ることはなかった。
■熊本では1カ月以上、高い水準
一方、熊本県では、全国の検索がピーク時の3割まで落ち込んでいた5月9日に検索数がピークを迎えた。4~5月にかけてはおおむね70~90%と高い水準を保ち続けている。5割を切ったのは、5月22日になってからだった。
発生直後から熊本入りして支援活動を行っているNPO法人カタリバの今村亮さん(33)は、熊本県の検索数が大きく減った時期について、「5月の大型連休明けに多くの避難所が閉まった時期だ。被災者が自宅での生活を再開し、日々の暮らしに戻ったタイミングと重なる」と指摘する。
■不安が風化を食い止める
全国と熊本県で検索数が大きく減る時期に差が出たことについて、京都大学防災研究所の矢守克也教授は「被災地と被災地外では、地震の記憶の『風化』のプロセスが異なっている」と指摘する。
京大防災研究所の矢守克也教授
矢守教授が、「熊本地震」と同時に検索された語句に着目したところ、全国では次のようなものが目立っていた。
【被害】
【死者】
【被害状況】
地震の全体的な規模を探るワードだ。「直接被害を受けていない地域では、地震の全体像を客観的に把握することで一件落着させようとする心理が働く。それが『風化』だ」
甚大な被害を受けた益城町。間もなく半年が経過する今も崩れ落ちた家屋が横たわったまま。住民からは「他の町ではもう、地震のことが忘れられているんじゃないか」との焦りの声が聞かれる=10月11日、熊本県益城町、平井良和撮影
一方で、余震が続く熊本では次のような語句が多かった。
【今後】
【余震】
【速報】
「被災地において『風化』とは、日常や日々の暮らしを取り戻すこと。余震への不安や恐れが風化を食い止めていたことが検索ワードから浮き上がる」と説明する。
■被災地では風化への焦り
被害が大きかった熊本県益城町の西村博則町長(60)は、7~8月の住民説明会で「東京では熊本地震が風化してしまっている」と繰り返した。
甚大な被害を受けた益城町。今も、道路沿いには倒壊家屋のがれきの山が続く。住民からは「他の町ではもう、地震のことが忘れられているんじゃないか」との焦りの声が聞かれる=10月11日、熊本県益城町、平井良和撮影
国への要望のため、7月に上京し、報道の少なさを目の当たりにしての実感だったという。「PRが不足している。私も、テレビにでもどんどん出ていかないといけない。何だってやる」と、焦りをにじませた。
今月、町内で開かれた若者の集会でも、今後の課題として「風化しないような心構え」「他県から地震の被害が忘れられていく」といった意見が出された。町が発表した復興計画の骨子には「震災の記憶を風化させないために、全国へ町の情報を発信し続ける」と盛り込まれた。
■「違い」前提に、伝達が必要
矢守教授は「風化は、あってはならないことではない。傷口を広げたまま、生活はできませんから」と話す。
高校生ら若い世代が復興について話し合うイベントでは、町の課題として「忘れられること」への不安が挙げられた=10月8日、熊本県益城町、平井良和撮影
そのうえで、「熊本と全国のギャップを埋めるのは難しい」と指摘。「『熊本が忘れられている』と論じるより、被災地の内と外で風化のギャップがあることを認識し、その前提で、被災地のフィーリングやリアルを他の地域へリレーしていくことが重要だ」と話した。(後藤遼太、平井良和)