配偶者控除のしくみは続けた方がよいですか?
所得税の配偶者控除の見直しが、話題になっています。年収を103万円以下に抑えて控除を受けようとすることで、女性の働く意欲をそいでいるのでしょうか。専業主婦を優遇しているのでしょうか。シリーズ「われら中小企業」で、いまのしくみを続けたほうがよいと思うかどうかを経営者50人に尋ねると、24人が「続けないほうがよい」と答えました。女性の生き方と同じく、その理由もさまざまです。
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■〈Yes〉道路関連工事「日本橋梁工業」取締役・菊地智美さん(41)
配偶者控除を撤廃したら、すべての女性が喜んで働き出しますか? そうは思えないんです。
いい環境に育ち、優秀でバリバリ働ける方に、控除は邪魔でしょう。でも、そういう女性ばかりではありませんよね。仕事をしたくても断られ、やっと見つけたパートの仕事で、年に103万円稼ぐ。これだって、たいへんなことです。なのに、ご主人が受けていた控除をなくして、増税するんですか?
女性の考え方も生き方も、いろいろです。子育てに時間を割きたいと思う方、自分の体力や病気、さらに親の介護などで、長い時間は働けない方もいます。そういう方たちを仕事に追いやりますか?
それぞれが生きることにがんばっている。いいじゃないですか、税制で多少の優遇をしてあげても、不公平があっても。「内助の功」に報いる制度は、あっていい。財政が厳しいのは知っています。だから、「女性活躍」というもっともらしい理由をつけて、取りやすい人から税金を取るとしか思えません。
女性は結婚し、バリバリ仕事をして子どもも育てなくてはならない。そんな空気が強まっていると感じます。イヤですね。自由な生き方を選びやすくするためにも、控除は必要です。「女性が輝く社会に」と言いますが、それは大企業の話。うちは父が創業社長で、将来、私が2代目になります。中小企業には女性社長も多く、女も男も輝いていますよ。(本社・東京都墨田区 従業員11人)
〈Yes〉 従業員に安心して働いてもらうには、税や社会保険、企業の制度で配偶者に配慮することが大切だ。女性の再就職では正社員の採用が少なく、女性を軽視する企業体質を一掃していない現状がまだある。配偶者控除をなくす意見には憤りを覚える。(40代・製造業)
〈Yes〉 主婦が働く多くの場合、「将来どうなりたい」というより、「今月の収入を増やしたい」という切実な理由があると思う。配偶者控除で年収103万円を決めたころに比べて時給はずいぶん上がったのに、この額を上げていないことが問題だ。(60代・製造業)
〈Yes〉 一般的な家庭の主婦は、配偶者控除の範囲内でパートとして短時間、働いている。当社も、そんな女性たちを雇っている。控除は主婦が働くきっかけになっている。控除がなくなれば税負担が増えるので、仕事を辞めてしまう可能性がある。(60代・サービス業)
■〈No〉翻訳・通訳サービス「エイアンドピープル」社長・浅井満知子さん(53)
社員は全員が女性です。今回、配偶者控除という制度をどう思うかを聞いてみると、みんな「納得できない」という意見でした。
当社は社員に「働く意義とは、やりがいや生計のためだけではなく、納税して社会の財源に貢献することでもある」と伝えてきました。内助の功も配偶者控除もなくても、共働きなどで納税の責任を果たす人がいる一方で、働かなくても就業調整しても控除を受けられるのは不公平、と感じるのは自然だと思います。
経営者として困った経験もありました。以前、週2~3日の勤務だった女性が優秀でしたので、働く日を増やしてほしいと頼みました。でも、夫の配偶者控除の対象から外れそうなので、と断られました。
日本は少子高齢化で、労働力不足です。女性も高い教育を受けて、一生働くことが当たり前と考える時代になり、専業主婦世帯より共働き世帯の方が多くなっています。
そうした時代にそぐわない、昔ながらの内助の功に報いる税制を守るのは、いかがなものかと思います。それよりも共働きの子育て支援を手厚くし、将来に貢献した人が報われる社会にすることが必要でしょう。
もちろん介護や健康などの事情で働けない方もいますし、低所得の世帯には控除が必要と思います。でも高所得の世帯まで配偶者控除は必要でしょうか。人それぞれの生き方は強制できませんが、他の納税者につけが回るのは公平とは言えません。(本社・東京都渋谷区 社員10人)
〈No〉 最低賃金には地域差があるのに、なぜ配偶者控除の基準は一律103万円なのか。パートの主婦でも職業人としての能力が高い人はたくさんいる。有能な人材の時給を上げると、103万円の壁があって働く時間が少なくなる。ばかげている。(40代・サービス業)
〈No〉 配偶者控除をなくし、女性のパート社員ももっと働いて、103万円を超える給料を正々堂々と取ればいい。その方が世帯収入は増える。けれど、女性が働きやすくなるというのは詭弁(きべん)で単に増税のためなら、断固として反対する。(50代・製造業)
〈No〉 配偶者控除の対象となるように、10月以降の勤務時間を減らして年収を調整する従業員がいる。いまのしくみは、働くことへの妨げになっていると感じる。政府や企業は、女性がもっと長く働くことができる環境づくりに取り組むべきだ。(40代・製造業)
〈No〉 配偶者控除は不公平だ。同じ働き方をしていても、独身者など主婦でない人には適用されない。世帯主が一馬力で家族を養うのが当たり前の終身雇用の時代にできた制度だが、現在は「二馬力で家族を守る世帯」が増えている。時代遅れだ。(60代・製造業)
〈どちらとも言えない〉 配偶者控除をやめるべきだという意見の背景には、「より働かないと生活が困るような状態に追いやる」イメージがある。多くの人が働くことに意義を感じるしくみが必要だ。(50代・サービス業)
■支える側に回る、大切にしたい視点
確かに多様な生き方が尊重されるべきだと思います。一方で、配偶者控除の「103万円の壁」を意識すると、時給が高い人ほど働ける時間が短くなる、という指摘が複数ありました。優秀な人や専門技能を持つ人ほど短時間しか働けないなら、もったいないジレンマといえます。印象に残ったのは「No」の浅井さんの言葉。ただでさえ支える人が少ない時代、余力があるのなら、「支えられる」のではなくて一緒に「支える」側に回ろう――。様々な組織でも地域社会でも、大切にしたい視点と感じました。(吉川啓一郎)
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◆編集委員・中島隆と吉川が担当しました。