「終活」を考える
今後に備えて遺言書を作成しようと思っています。子どもたちに平等に財産は残したいと思いますが、注意すべきことはありますか。
◇
家族のために遺言書を作成する人が増えてきました。ところが、遺言書を作成したために、トラブルが起きてしまうことがあります。
都内に住む80代男性のAさんは、亡くなった妻と暮らした家に長男一家と同居していました。次男夫婦とは交流がありませんでした。Aさんは、夫婦で病気がちだったため預貯金はほとんどなく、家は長年支えてくれた長男に住み続けてほしいと願っています。
そこで、自分の意思を残すため、手書きで遺言書を作成しました。ところがAさんが死去した後、次男が長男に対し、唯一の財産の自宅を自分が相続できるよう、Aさんに遺言を書かせたのだろうと言ってきたのです。次男は遺産をもらう権利を主張し、兄弟仲が険悪になってしまいました。
千葉県に住む80代女性のBさんは、夫が残した家で一人暮らし。近くの三女が面倒を見てくれていますが、離れている長女と次女は入院しても顔を出さず、心情的に三女に全財産を残したいと思いました。
しかし姉妹仲が悪くなるのを心配し、公証役場で遺言書を作成し、遺産は平等に分けるようにしました。しかし、それを子供たちに伝えると、納得いかない、と姉妹間で言い争いになってしまいました。
遺言書の作成目的をしっかり考えることは必要です。子供たちがもめないようにするのもいいでしょう。しかし、よかれと思った遺言書が、結果としてトラブルを招くことがあります。遺産が居宅と少額な預貯金程度の場合、残った子供たちでスムーズに分けられずにもめがちです。
だからといって一つの不動産を共有名義にすると、次の相続や売買でもめる可能性があり、避けるべきでしょう。また、特定の子に世話になった場合は、その子の感情を無視すべきではありません。
Aさんのケースでは、遺言書を手書きでつくったのが間違いでした。自筆証書遺言は誰にも知られずに作れますが、誰かに意図的に作らせたとも思われがちです。それを防ぐには、公正証書遺言にし、その内容についての理由(付言事項)も残すべきです。Aさん本人の思いがわかれば、「長男が書かせた」とは言われなかったでしょう。
Bさんの場合は、遺言書の作成を伝えたことがマイナスになりました。遺言書を作成したことやその内容を伝えるかはケース・バイ・ケースです。
遺産をどう分けるかについて、子供の心情にも配慮すべきでした。世話になった三女へは遺産とは別に死亡保険金や生前贈与で調整する、などです。
残される家族のことを考えるなら、自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらで作成するか、その内容で大丈夫かなどをよく考えてみることが必要です。
自筆証書遺言の場合、無効にならないよう、全文自筆、日付、署名、押印は欠かせません。死亡後の家庭裁判所の検認(証拠保全手続き)も必要です。封印されたものが開封されても無効にはなりません。
遺言の目的達成が自分だけでは難しいと感じたら、専門家に相談することをすすめます。(相続・終活コンサルタント 明石久美)