小さい、安い、小気味よいの三拍子そろった庶民の味方、コンパクトカー。ダウンサイジングばやりの近年は、使い勝手の良さからあえて小さな車を選ぶオーナーも多い。仏ルノーによる珍しい設計の新型トゥインゴと、日本メーカーのお家芸が詰まった軽乗用車のダイハツ・ムーヴキャンバス。今秋に国内発売された、それぞれのお国柄が色濃い2台に乗って、今どきのコンパクトカーの魅力を探った。
「女性がガンガン乗り回せる」軽乗用車 ダイハツ発売
■マニア向けにはもったいない軽快感
新型ルノー・トゥインゴは、車体後端にエンジンが載るRRレイアウト。古くはフォルクスワーゲン・ビートルやフィアット500、ルノー4CV、スバル360など、国内外問わずコンパクトカーは後ろにエンジンを搭載するのが定番だった。しかし1970―80年代には、部品点数が少なく生産コストを抑えられる、エンジン前置き・前輪駆動のFFレイアウトが主流になった。
もはやポルシェ911ぐらいでしかみられないマニアックなRRだが、この方式で先行する独ダイムラー「スマート」と車台を共用しながら、往年のレイアウトを復活させた。独仏メーカーの協業の産物でもあるRRの積極的な意味づけとして、ルノーはリアゲートの傾斜や、フェンダーのふくらみなどに往年の名車のイメージを採り入れて伝統を強調。取り回しのよさや静粛性をアピールする。本国では2014年に3代目として発売された。
大きなグリル穴が不要なフロント周りはすっきりした造形。カーナビも付かないミニマムな装備の内装は、あか抜けたカラーリングも相まって安っぽくはない。ルノーは宣伝でもパリの生まれ育ちを強調。オシャレで軽快な都市型コミューターとして浸透を狙う。
確かに、走りは軽快そのもの。0.9リッター3気筒ターボとダイレクト感のある2ペダルマニュアルの組み合わせは、必要十分な加速を得られる。フロントに重量物がなく、吸排気管が舵(かじ)を邪魔することもないので、ハンドルを切ると車体の鼻先がコーナーの内側にグイグイと入っていく不思議な感覚を味わえる。
いわば、簡素だが優れた設計とデザインの工業製品。メカニズムの妙に酔いながらさっそうと駆けるのは楽しい。ただ、メカ好きな自動車ファン以外が積極的に選ぶ理由にはならなそうなのがやや残念。似たり寄ったりなミニバンばかりでなく、こんなクルマも街中に増えてほしいが、売れすぎたらオシャレさは損なわれそうなのが悩ましい。
■男性にも支持されそうな使い勝手
ダイハツが徹底したマーケティングを踏まえて投入したのが、ムーヴキャンバスだ。「消費や自分への投資意欲が旺盛な、母親と同居する未婚女性」がターゲットだという。既存量販モデルの車台をベースに、パステル色の丸みを帯びた装飾やクロムパーツをふんだんに用いた。後部ドア両側をスライド式にすることで乗降性にも配慮。その一方で、後席に子どもを乗せる子育て家庭向けの需要は、より背の高い既存車種のタントに委ねた。
いざアクセルを踏み込むと、思ったように加速してくれない。ターボ過給が付いていないからだ。想定するユーザー層には不要との判断だという。平均速度が上がる郊外では、アクセルを踏みっぱなしにしないとバイパスの流れについていけないかもしれず、うなるようなエンジン音に耐えなければいけない。
ただ、剛性は驚くほど高い。太いピラーや補強のおかげか、段差を乗り越えてもミシリともいわない。車線変更でも揺れの大きさはほどほどで、165センチという車体の高さから想像するほどの不安感はない。ブレーキの利きも悪くなく、乱暴に振り回さず都心を穏やかに走る分には、走る喜びには乏しくても不満の声は出ないだろう。
後部座席の下から引き出して使う収納箱「置きラクボックス」が、使い勝手向上の目玉。「スーパーで買った食品を足元に置くのは抵抗がある」というニーズをくんだという。こういう目配せこそが、国産車の真骨頂。ファンシーさと両立した実用性の高さは、男女問わず支持されそうだ。
トヨタの完全子会社となったダイハツは今後、小型車部門における新興国市場の切り崩しという重責を担うとみられる。その暁には、ムーヴキャンバスの意匠をまとい、1リッター程度の余裕あるエンジンと広い車幅で、キビキビ走る小型車を投入してみてはどうだろう。効率と精度を極めた生産技術とおもてなしの趣向、そして「カッコカワイイ」ジャポニズムの融合はむしろ、海外でこそウケるように思える。(北林慎也)