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1カ月あまり眠れず、食べられず… ペットロスを考える

作者:佚名  来源:asahi.com   更新:2018-6-25 10:21:01  点击:  切换到繁體中文

 

写真・図版


ペットが亡くなった後に…


犬や猫の平均寿命は、延びたと言っても14、15歳。飼い主は多くの場合、その死に直面することになります。いとおしい存在を失えば、悲しくて当然。ペットロスは、飼い主の誰にも起こることなのです。ペットが元気なうちから、いつか来る別れについて、考えておきませんか?


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愛犬の死 日常断ち切られた


柴犬(しばいぬ)の「もも」が20歳で死んだ今年1月、編集者・間曽(まそ)さちこさん(57)の日常が断ち切られました。


1カ月あまり、眠れず、食べられない日々が続き、街で似た犬を見かけて、泣き出してしまうこともあったと、間曽さんは言います。


「ももは、私の生きる意味でした。ももがいたから仕事を頑張れ、もものおかげで友人が増えました。ももがいなくなって、私は迷子のようになってしまった」


1997年10月に迎えたももは、シャイで内弁慶な性格でした。子どもができないままパートナーと別れ、東京都内から神奈川県へと転居し、ここ数年は介護のために両親と同居。この間いつも、かたわらにはももがいました。「誰よりも、ももと一緒に過ごした時間が長かったです」と間曽さんは振り返ります。


近所づきあいも、ももが中心。名前ではなく「もものお母さん」として認識され、たくさんの「犬友(いぬとも)」に恵まれました。サンルームで、1人と1匹で昼寝をする時間は、何ものにも代えがたい幸せなものでした。


柴犬としてはかなり高齢まで生きたももは晩年、認知症になり、介護が必要になりました。ももの介護を始めて2年あまり。朝ご飯を食べず異変を感じた翌日、間曽さんの腕のなかで、最後に「ワン、ワン」と2回鳴いて、静かに息を引き取りました。


悲しみに沈む間曽さんを励ましたのは、犬友たちとのメールやたくさんの献花でした。祭壇を作ると、焼香に来てくれる人もいました。犬猫の保護施設でボランティアをしたり、ももへの思いをブログにつづったりしているうちに、少しずつ回復していったといいます。


悲しみは完全には癒えません。ももが入った骨つぼは、いまも仕事机の上にあります。「いつもそばにいます。自分が死んだ時、一緒のお墓に入れてもらうつもりです」


介護・供養見据え「終活」を


漫画家の卵山玉子(たまごやまたまこ)さんは今春、「ネコちゃんのイヌネコ終活塾」(WAVE出版)を出版しました。自身も2匹の猫を飼う卵山さんは、ペットロスの重症化、長期化を避けるためにも、ペットの「終活」が必要だと指摘します。「犬猫の寿命は人間よりも短い。つらいことですがいつか死ぬ時のことを考えておかないといけない。ペットの終活は飼い主の責任です」


ポイントは、死ぬ前の闘病・介護と死んだ後の供養・グリーフケア(死別の悲しみの癒やし)にわけられます。闘病・介護にあたっては、ペットの死後に後悔する要因を減らしていくことが大切。かかりつけの獣医師とよくコミュニケーションを取って知識を蓄え、資金面も含め、幅広い選択肢を持っておくよう心がけるといいそうです。供養については、火葬の方法、葬儀をするか否か、埋葬場所などを前もって決めておくべきだといいます。「葬儀会社の担当者とは事前に打ち合わせし、火葬施設や墓地は必ず見学しておくこと。なかには悪質な業者もいます」。


死別の悲しみを癒やす方法は様々で、人間の場合と同様、自助グループもあります。ペットのがん治療で同じ大学病院に通っていた飼い主らが1999年に立ち上げた「ペットラヴァーズ・ミーティング」もその一つ。悲しみのなかにいる飼い主が互いに支え合えるよう3カ月に1回、東京都内で「ミーティング」を開いています。9月開催分で73回目。毎回20人前後が参加するそうです。


愛猫をがんで亡くした経験を持つ梶原葉月代表は、「私も、動物の病気や死のことをとことん話せる仲間に出会え、助けられた。生きていたころの幸せな思い出、亡くした悲しみを気兼ねなく話してほしい。わかちあうことで、救われます」。


積極的にグリーフケアに取り組む動物病院もあります。神戸市の「もみの木動物病院」では毎年1回、同院で診療していたペットたちの「偲(しの)ぶ会」を行っています。例年、10家族以上が集まります。ペットへの思いをつづった手紙を読み上げたり、献灯したりするなかで、悲しみを共有します。


副院長の村田香織獣医師は、「犬については、飼い主と親子関係に似た関係を築くことが、科学的にも証明されている。子どものような存在のペットが亡くなるつらさを軽減することは、獣医療者の役割でもあると考えています」。


葬儀・供養の内容やかかる費用は飼い主次第でかなり異なります。火葬を個別でするか、合同でするか。自宅に火葬車を呼ぶ自宅葬にするか、人間と同じように斎場などで葬儀を行うか。骨を墓に納めるか、自宅に保管するか――。選択肢は広く、インターネット上には情報があふれています。


宗教法人「慈恵院」の付属施設として作られた「多摩犬猫霊園」は、1921年に開園しました。同園でも複数の葬儀方法を用意しており、人間の葬儀に似た「立会葬」では、臨済宗の法式にのっとって供養を行っています。僧侶が読経するなかで告別式を行い、火葬後に家族が骨を拾って骨つぼに納めます。


葬祭料は犬種や動物種ごとに異なりますが、合同で火葬、埋葬する「合同火葬」では小鳥など小動物で7千円(税別)、猫で1万4千円(同)、小型犬で1万8千円(同)です。年間約3千件行われるという立会葬だと、三回忌までの供養料なども含めて4万~7万円程度(同)になります。


住職代務の田中章恵さんは「きちんと式をしてあの世に旅立たせてあげることで、飼い主さんたちの心が落ち着く。どんなに悲嘆に暮れていても、火葬が済むと、皆さんすっきりとした顔になります」と話します。


骨は納骨堂に納めたり、供養塔に合祀(ごうし)したりするのが一般的ですが、自宅に持ち帰る人も少なくありません。境内にある墓地の分譲も行っています。月例法要には、多いときで100人近くが集まるそうです。


なお、多くの自治体でも清掃事務所などがペットの死体を引き取り焼いてくれますが、通常は骨は戻ってきません。手数料は3千円前後です。一方で、飼い主自身が亡くなった時、ペットの骨と一緒に入れる墓も徐々に増えてきています。


家族を失う悲しみ 人間と同じ 新島典子・ヤマザキ動物看護大准教授(動物人間関係学)


「ペットは家族」という認識が一般的になるに従い、重いペットロスになる人が増えてきました。ペットロスとは、犬や猫などのペットを失うことで生じる、悲しみの感情のことです。人間の家族を失った時に生じる感情と違いはなく、場合によっては重症化、長期化し、日常生活にも支障をきたす状態になることもあります。米国では1990年代から、精神医療のケアが必要な症状としても注目されるようになっています。


悲しみが大きくなる要因として、ペットの飼い主に特有の、自責の念と愛着の強さがあげられます。ペットは人間よりも治療の自由度が高いため、たとえば「自分の判断で闘病を長引かせ、苦しませてしまった」などと後悔する場合があります。また、ペットは人間の言葉を話さないため、飼い主が自由に絆の強さを想像できる。その分、愛着は強まりやすいと言えます。


ここに、ペットを失った悲しみが社会で公に認められないという問題が加わります。人間の家族が亡くなると、職場や学校で休暇をとり、葬儀などを営むことは当然のことと受け止められます。ところが、ペットの死がつらくて飼い主が仕事を休んだり葬儀を営んだりすれば、「変わった人」というレッテルが貼られる。よかれと思って「次のペットを飼えばいい」などと声をかけてくる人もいますが、子どもを失った親にそんなことを言う人はいません。周囲の無理解が悲しみを増幅させ、長引かせます。


ペットロスになると強い疲労感や虚脱感を覚え、なかには睡眠障害や摂食障害になる人もいます。抗うつ剤を処方されるケースもあり、獣医療の現場でも重く受け止めるようになっています。本学では、動物看護師がこの問題に対処できるよう長年、「ペットロス論」という講義を行っています。


猫と暮らす高齢者 重症化に注意


ペットロスが深刻になりがちな飼い主には特徴があります。一般に、独り暮らしで、飼っているペットは1匹、一緒に過ごす時間が長く、その死を共有できる人がいない――などの場合にひどくなるとされます。愛着が強くなりやすく、一方で悲しみを癒やす機会が少ないためです。


条件にあてはまりやすいのが、猫を飼う高齢者です。犬のように朝晩の散歩が必要ない猫は、独り暮らしの高齢者でも比較的無理なく飼育できます。高齢者は仕事などで出かける機会も少なく、猫と過ごす時間が長くなります。犬の飼い主にはたいてい「散歩仲間」がいて、飼い犬が死んだ時の悲しみを共有するコミュニティーを持ちますが、猫の場合はそうした交流があまりありません。こうして猫を亡くした高齢者が、深い悲しみに沈んでしまうのです。


キャットシッターの草分け的存在で「猫の學校2 老猫専科」(ポプラ新書)などの著書がある南里秀子さんは、「特に高齢者と猫が一対一の関係になっている場合、ペットロスが重症化することが多い」と話し、「猫と暮らす方は交流の場を持たず、悲しみを抱え込んで、うちにこもる傾向が強い。猫のことを話せる仲間を作って」とすすめます。


南里さんは昨年、「森のデスカフェ」を始めました。スイスの社会学者バーナード・クレッタズが妻の死を契機に始めた、死を語り合うための場「デスカフェ」の猫版で、隔月ペースの開催ですが毎回定員いっぱいの申し込みがあります。「ほかの人の話を聞くことで安心感や共感が生まれ、死のショックがやわらぐようです」



いま飼っている猫2匹はいずれも保護猫なので、誕生日がわかりません。それでも、いろいろこじつけて誕生日を設定。普段よりちょっとぜいたくなフードをあげて、その日を祝っています。


ただ、猫の誕生日会は、平均寿命15・33歳(2017年、ペットフード協会調べ)を見据えた「カウントダウン」につながります。ともに過ごせる幸せをかみしめつつ、あと何年くらい生きてくれるのだろうと、ある種の恐怖感を抱く機会になります。


別れの日を迎えたとき、自分が冷静でいられる自信はあまりありません。たぶん会社は体調不良を理由に休みます。火葬した後も、服についた柔らかな毛を見つけてはぼうぜんとするでしょう。このままでは、ペットロスまっしぐらです。


取材を通じて特に印象に残ったのは、ペットを失った悲しみを共有できる仲間を持つ大切さ。そして悲しいのは当たり前、ということ。


うちの子たちは妖怪・猫又(ねこまた)になるくらい長生きする予定なので、別れの日はあと15年以上やってこないはず。今から「猫友(ねことも)」づくりを心がけ、いざその日が来てしまったら堂々と悲しみ、葬儀のためと同僚に伝えて有給休暇を取ろうと思います。(太田匡彦)



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