朝日新聞デジタルのアンケート
教育現場で深刻化する先生の働き方の問題について、現場の教員の話などを通して、これまで3回にわたり、みなさんと一緒に考えてきました。最終回は、激務の教員だった夫を亡くした妻の訴えや先進的な対策などを紹介し、問題解決の方向性を探ります。
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改善の検証 国が踏み込んで 神奈川過労死等を考える家族の会・工藤祥子代表
11年前の6月、中学教員だった当時40歳の夫を亡くしました。くも膜下出血でした。夫は子どもと接することが大好きで、教え子にも、とても好かれていたようです。
勤務先では生徒指導専任として子どもの対応や地元警察などとの関係作り、体育の授業に修学旅行の引率、会議の資料作成にサッカー部の指導と、本当にたくさんの仕事を抱えていました。夫の死後、倒れる前に担当していた仕事内容を調べて表を作った時、その量に驚き「これは1人でする仕事量じゃない」と思いました。5年かかって、公務員の労災にあたる公務災害が認定されましたが、倒れる1カ月前の時間外労働の半分以上は認定外になりました。
夫が亡くなった11年前に比べて、教員の働き方改革の議論が高まってきたと感じます。国は勤務時間管理を各自治体に促したり、教員の仕事を仕分けして外部人材を導入したりと、対策をとろうとする姿勢は評価できます。
ただ、外部人材を雇う場合、適切な人材をどんな方法で雇用し、その指導は誰がするのか、というところまで国が具体的に示し、実際にケアをしなければ、結局その仕事も現場の教員任せになりかねません。
また、働き方改革の仕組みを作ったことに満足せず、それによって学校現場では実際に改善が進んでいるのかという具体的な検証や、時間管理などができていない場合のペナルティーはどうするかまで踏み込むべきです。
現場で改善の動きが浸透するには時間がかかります。研修などで働き方改革の仕組みを説明したり、全国的な教員の残業時間を調査して結果をフィードバックしたりと、教員が改善を自覚できるようにすることも大切です。子どもの数は減っていても、英語やプログラミング導入など仕事は増えています。教員の人数を増やすなど、働き方改善も含めた教育分野へ予算をかけるように、変えなければならないと思います。(聞き手・円山史)
8月に16日連続学校閉庁へ 岐阜市教育委員会 早川三根夫教育長
児童・生徒の成長という仕事のやりがいが、生きがいにもなり、教員は際限なく努力してしまいがちです。勤務時間はセブンイレブン(午前7時~午後11時)と言われるほどですが、やりがいに裏付けられた大変さであり、時間管理の意識が希薄なのが現状でした。
しかし、それも「過労死ライン」を超えて働く教員が増え、放置できない状況になり、市教育委員会として16項目にわたる「教職員サポートプラン」を2月にまとめました。その一つが、小中学校の夏休みにおける16日間連続の学校閉庁日です。
8月4日から19日まで日直を置かず、会議や補習、研究、部活など通常業務を行わない期間とします。教員は必ず休まなければならないのではなく、自主研修の時間に使ってもらっても結構ですし、自由に過ごせる時間という位置付けです。2年ほど前からこの期間に市や県の会議や研修を無くしていたので、環境も整っていました。教員の大変さばかりが強調される中、新たな仕事の魅力として発信できればと思います。
PTAや地域の方の協力もあって、市民から「16連休」の趣旨は理解してもらっています。ただ、その間の郵便物の受け取りやウサギの餌やり、放課後児童教室の利用など課題も出ました。教委として想定しうることは事前にまとめ、学校に対応をお願いしています。また、部活動も8月の全国大会に出場する学校を除き原則休みにします。緊急時の電話対応などは教委が窓口になって反射神経よく対応します。
というものの、初めてのことですので、想定外のことが起きるかもしれません。一体、どんなことが困ったのか、教員がどれぐらい休めたかなど取り組みを振り返り、全国に発信したいと考えています。
今後、学校閉庁日は全国的に増える流れです。次々起こる新たな課題に対して、いち早く動き、教育の質を維持しながら、ルールを作る側になる意気込みで対策を進めていきたいと思います。(聞き手・峯俊一平)
人員減反対・教科担任制に
アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
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●「土日も休みなく勤務し、飲み会があれば、半強制的に参加。参加しなければ、気持ちがないと説教する先輩たち。平日も夜遅くまで仕事して、家庭での時間もあまり取れず、かと言って、早めに帰ると教材研究が十分に出来ず評価に響く。これじゃあプライベート潰して仕事しろと言われているようで。せめて残業代は正しく支給しようよと思います。
残業しても残業代もなく」(学校の先生 沖縄県・30代男性)
●「自分より学校を優先するのが教員の美徳だと思っている教員が多い。が、そんな教員は人間としての魅力が全くない。生徒たちもそれは感じとっている。特に退職してもまだ教員をやりたがる再任用の教員はそれしか能がないので嫌われる」(学校の先生 茨城県・40代女性)
●「教師が多忙だと、子供の変化に気づくことができず、困っている子供に対しても敏感になることができない。貧困家庭の子供に対して学校も巻き込んだ支援を行うには、働き方改革が必要だと感じる」(児童、生徒 東京都・10代女性)
●「少子化だからと先生の定数を減らそうとする国の方針には反対。先進国の多くは学級規模が十数人~30人程度。日本は40人上限。先生が個別対応に追われると授業の準備に時間が割けず子どもの学力が下がる。先生が職場だけでなく私的に様々な活動をできたら人としての深みを増すことができ、子どもにとってもよい影響をもたらすだろう」(保護者 千葉県・40代女性)
●「私は教育学科の大学生ですが、教員の働き方(特に超過勤務)は大きな課題となっていることが授業でも挙げられています。卒業後は教員になるつもりですが、教員の働き方については不安が残ります」(大学生、大学院生 兵庫県・20代女性)
●「教育委員会と校長が、本来、学校教員の職務でないにもかかわらず、これまでの慣例として教員が担ってきたことを、バッサリと切ってしまう英断が必要。特に服務監督権をもつ教育委員会は、各校のPTA、保護者、地域に対して、現状の課題と改善の必要性を、教育行政の責任として訴え理解を求めなければならない。学校任せにしていては、責任の放棄である」(学校の先生 京都府・50代男性)
●「先生の仕事にはキリがない。子どものことを考えるといくらでもやりたいことは浮かんでくる。しかし、勤務時間内には到底終わるはずがない。小学校も教科担任制にしていくべきだ」(学校の先生 奈良県・50代女性)
●「小学校の教員です。子供が好きでこの世界に飛び込み、よかれと思うことを精いっぱいやってきた。我が子が、『教員になりたい』と言い出した時、正直、賛成できない残念な自分がいた。学校に対する期待、教員の責任等々、多くのことを学校で請け負うのならば、教職員を増やして、学校を『子育て』の中心にすればいい。子供の親も忙しく、子育ての覚悟もなく国全体・企業全体がブラックなのだから、中途半端な働き方改革も勤務時間削減も、外部委託もする必要はない。学校教育に予算をまわし、優秀な人材を集め、がっちり学校教育を進めたほうが、合理的ではないかと……」(学校の先生 福島県・40代男性)
●「最近先生方が疲れているなと思う。やはり先生方の仕事の多さがつながっているのだろう。私の両親も教師だが、休みの日も学校に行き、仕事をしている日々だ。また、帰宅も遅く、自宅でもパソコン片手にいつも仕事。一緒に買い物に行ったり、遊んだりなんて当然出来はしない。学校の先生方はよく相談に乗ってくださったり、分からないことを放課後まで教えてくださったり……そんな先生が私は大好きだ。そのため、生徒たちの中で先生を少しでも楽にさせたいという考えが広まり、終礼を早く始めたり、注意をさせないように自分たちで呼びかけたりするようになった。悪いことではないと思うが社会全体が何か政策を作ることは出来ないのだろうか」(児童、生徒 福岡県・10代女性)
●「質のいい先生、悪い先生がいて、先生がまとまらないから子供へ目が向くことに落ち度がある。先生の教育から指導するべきだ! どの仕事も人材不足の中大変なのは教員だけではない。向き合わないで問題があっても見て見ぬふりをしている教員が増えている」(保護者 群馬県・30代女性)
まずは授業以外の仕事仕分けから
学校現場の多忙を解消するには「教職員定数を増やすことが最も効果的」と関係者は口をそろえます。しかし、少子化や財政事情が厳しい中、実現へのハードルは高い状況です。そこで、文部科学省は「今できること」から手を付けています。
まずは学校や教員が担ってきた授業以外の仕事の仕分けです。「登下校の見守り」や「給食費などの徴収や管理」は自治体や教育委員会、ボランティアが、「校内清掃」や「休み時間の子どもへの対応」は教員以外がそれぞれ担うことも検討する。「進路指導」や「学習評価と成績処理」の一部は事務職員や外部人材が担う方がいい、という具合です。
文科省はこの仕分けをベースにして、先生の仕事の範囲を示す「モデル案」を作る予定で、各教育委員会が学校運営のあり方を定める「学校管理規則」に反映してもらいます。また、タイムカードなどを使った勤務時間の管理の徹底や夏休みなどに教職員が一斉に休む「学校閉庁日」の設定なども各教委に促しています。
先生の働き方改革を巡っては、文科相の諮問機関である中央教育審議会で議論が続いています。今後は管理職も含めて負担を減らす学校の組織や、残業の抑制に向けた勤務時間に関する制度のあり方について方向性を示す予定です。(峯俊一平)
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