喫茶モカの再出発を喜ぶのんさん、渡辺えりさん、樋沢正明さん、あけみさん(左から)=9月18日、岩手県久慈市本町
NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」に登場した喫茶店のモデルとされる岩手県久慈市本町の「喫茶モカ」が台風10号の浸水被害を乗り越え、9月半ばに営業を再開した。「あまちゃんの聖地をなくさないで」。全国のファンやドラマ出演者らの励ましが後押しした。
モカは48年前、久慈駅近くにオープン。店主の樋沢正明さん(69)と妻あけみさん(63)が二人三脚で切り盛りしてきた。
ドラマでは軽食喫茶「リアス」のモデルとされ、俳優の小泉今日子さんら出演者がロケの合間にたびたび訪れた。放映後は「北限の海女」の小袖海岸などとともにファンにとっての「聖地」に。台湾や香港など国外からも大勢やってきた。
8月末の豪雨でモカも床上1・2メートルまでつかった。冷蔵庫や電子レンジはひっくり返り、調理器具や食器も泥水をかぶった。樋沢さんは閉店を覚悟した。
だが、激励や再開を待ち望む手紙がファンから何通も届いた。東京や大阪から片付けの手伝いに駆けつけてくれる人もいた。
「琥珀(こはく)の勉さん」役だった俳優塩見三省さんとの約束も力になった。好物のナポリタンを食べに何度も足を運んでくれた塩見さんと会話が弾み、「お互い同い年。70歳まで頑張ろう」と約束を交わしていた。
樋沢さんは「わざわざ訪れてくれるあまちゃんファンに立ち寄れる所がありませんとは言えない」と奮い立った。泥土をかき出して床を張り替え、備品を買い替えた。被災から3週間たたずに再開にこぎつけた。
翌日には、ヒロインを演じた俳優のん(本名・能年玲奈)さんと渡辺えりさんが来店。「お店がなくならなくて本当にうれしい。これからも頑張って」と再出発を喜んだ。
久慈市の駅前商店街では、多くの店が被災した。樋沢さんは「今も再開できない店が少なくないし、廃業に追い込まれた店もある。モカの復活で商店街を元気づけたい」と話す。(阿部浩明)