へらですくって食べる冬の水ようかん。紙箱には囲炉裏、ようかんを覆うフィルムには雪だるまの図柄がある=福井市の久保田製菓
「余は凡(すべ)ての菓子のうちで尤(もっと)も羊羹(ようかん)が好(すき)だ」
夏目漱石は「草枕」の主人公にそう言わせている。「あの肌合(はだあい)が滑らかに、緻密(ちみつ)に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ」
確かに、ようかんには正座で鑑賞したくなるような品格がある。団子やまんじゅうとは違う。よそいきの和菓子である。
昨年の家計調査で、福井市はようかん購入額が日本一だった。2人以上の世帯で年間1603円、全国平均の2倍になる。消費が増えるのは冬場で、しかも練りようかんではなく、水ようかんが売れる。福井県内で約200軒の菓子店がオリジナルの冬季限定水ようかんを売り出すという。
福井市の久保田製菓は1日、今季の販売を始めた。甘納豆なども扱うが、11~3月の水ようかんが年間売り上げの8割を占める。「よその地域では夏に水ようかんを食べると知った時は驚きました」。3代目の社長、久保田晃仁さん(32)が言う。
薄い紙箱に、あんを直接流して固める「箱流し」という手作りの製法で、しかも無添加。短冊状の切れ目に沿ってへらですくい、つるりと口に流し込むのが、福井の流儀だ。
冬の水ようかんの起源は諸説あって、定かではないらしい。
昔、京都に丁稚(でっち)奉公に出た人たちが、正月の里帰りの土産に、高価だった練りようかんを薄めて作り直したとも言われ、「丁稚ようかん」の名も残る。
練りようかんに比べて水分が多く、糖度も低いので日持ちしないため、寒い福井の冬に合った菓子でもあるらしい。
市内のスーパーをのぞくと、プリンやゼリーに並んで水ようかんコーナーがあり、複数のメーカーの箱が積み上げられている。福井駅前のコンビニではレジ横に、肉まんのような専用ショーケース。「冬季限定」「福井名物」の文字がケースを飾っていた。
寒い冬の日、こたつを囲んで、つるりつるり――。漱石が「美術品」と呼んだようかんとはひと味違った景色が、今年も福井の冬を彩る。(湯瀬里佐)
■ようかんの年間購入額
①福井市 1603円
②熊本市 1359円
③佐賀市 1318円
④東京都区部 1301円
⑤盛岡市 1152円
全国平均 795円
※昨年の総務省家計調査から。2人以上の世帯の年間平均購入額。県庁所在地と政令指定市での順位