銭湯絵師の中島盛夫さん。金色の富士山も描く=東京都板橋区、仙波理撮影
各分野で卓越した技能を持つ「現代の名工」に今年は160人が選ばれた。東京都港区の明治記念館で21日、表彰式がある。数少なくなった銭湯絵師の中島盛夫さん(71)=東京都=は、富士山をモチーフにした背景画を描く技術に秀でているとして選ばれた。
中島さんは福島の高校を中退し、上京して町工場で汗を流していた。19歳のとき、工場の床に落ちていた新聞に「銭湯絵師の助手募集」という三行広告があるのをみつけた。その日のうちに電話をかけた。
絵が趣味だった。工場の隣の銭湯に大きな富士山の絵があって、「いつか描いてみたい」と憧れていた。以来、半世紀あまり。描いた絵は1万点を超える。「全国の銭湯がキャンバス。大きな絵を描くのは楽しくてやめられない」
幅10メートル弱の巨大な銭湯の壁と向かい合う。一つの絵にかける時間は3時間ほど。定休日や営業時間前に描かなければいけないので下書きはほとんどしない。30代のころ、唯一の休みだった日曜日をつかって、毎週富士山の周辺に通った。360度、様々な角度からの光景が頭のなかにある。
足場を組み、4種のローラー、10種のはけや筆を駆使して空から塗っていく。筆は細いものになると、5ミリほどのものも。とくに心を砕くのが、長く伸びる稜線(りょうせん)と、頂上の陰影だ。「富士山は3歳の子どもでも描ける。それをいかに描くか。腕の見せどころだよ」
最新の絵が、常に最良の仕事だ…