カナダの朗読会で坂本龍一さんのピアノに合わせ、詩を朗読する吉永小百合さん=5月3日、カナダ・バンクーバー、内田光撮影
俳優の吉永小百合さんと音楽家の坂本龍一さんが12月19日、チャリティーコンサート「平和のために~詩と音楽と花と」(朝日新聞社主催)を大阪・中之島のフェスティバルホールで開く。2人は「核なき世界」に向け、今こそみんなで考えて行動する機会にしたいと、その思いを語った。
特集:核といのちを考える
吉永さん・坂本さんの原爆詩朗読コン 12月に大阪で
「戦争のこと、原爆のこと、福島のこと。忘れないで語り継ぐことが大事。小さな声、小さな力でしかないけれど継続しかない」
吉永さんは原爆詩の朗読を30年にわたって続け、福島の原発事故をめぐる詩も読んできた心境を語る。
吉永さんは1945年3月、大空襲直後の東京で生まれた。「防空壕(ごう)で生まれたようなもの」。ものが言えなかった戦時中を思い、「そうならないよう言い続ける」と考えてきた。広島や長崎の被爆者を描いた映画やドラマへの出演をきっかけに、原爆詩の朗読を始めた。「あの年に生まれた者の役目」と見定める。
いま国際社会に目を向けると、米国の「核の傘」にある日本政府は先月、核兵器禁止条約に向けた決議に反対票を投じた。「核廃絶に積極的でなく悲しい」。東日本大震災後は原発事故があった福島に通い続け、仮設住宅に暮らす人たちと交流。故郷を奪われ、帰りたくても帰れない苦悩に触れ、「もっと寄り添い、忘れずにいたい」との思いを強める。
コンサートでは、広島の詩人・栗原貞子の「生ましめんかな」、福島の被災者・佐藤紫華子(しげこ)さんの詩「一時帰宅」、沖縄の小学生の詩「へいわってすてきだね」など約20編を読む。広島、長崎、沖縄、そして福島。吉永さんは「全部つながっている。いま、生きることを見つめることが大事な時期。舞台と客席が一体になり、ひとつの作品がつくれたら」と話す。
吉永さんは坂本さんと5月、カナダ・バンクーバーで朗読会を開き、若者らに「核なき世界」への願いを発信。国内にも広げたいと大阪での開催を決めた。
米ニューヨーク在住の坂本さんは、日本の核武装を容認する発言をしたトランプ氏が米大統領になることに触れ、「暗黒世界に落ちたように感じる。そうでなくても世界中に紛争やその種があふれていて、1世紀前ならいつどこで世界大戦が勃発してもおかしくない」と指摘。今回のコンサートについて「平和は放っておいても保たれるわけではなく、常に努力しなければならない。暴力の種に対しては、いつも見逃さないようにしたい。そんなことを考えるきっかけになればうれしい」と話す。
コンサートは12月19日午後6時30分開演。シンガー・ソングライターの大貫妙子さん、ギタリストの村治佳織さん、能楽笛方家元の藤田六郎兵衛(ろくろびょうえ)さん、華道家の辻雄貴さんらも趣旨に賛同して出演する。全席指定8千円(寄付金3千円含む)。広島、長崎の原爆資料館の運営団体や被爆者団体、東北ユースオーケストラなどに寄付する。問い合わせはキョードーチケットセンター(0570・08・9970)。(高木智子、田井良洋)