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近所に保育園、迷惑ですか 高齢者ほど反対って本当?

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保育園、迷惑ですか?


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朝日新聞デジタルのアンケートで、「あなたの家の近所に保育園ができることになったら、どう感じますか?」と尋ねたところ、「好ましくない」という回答は約4%のみでした。しかし、現実には保育園の新設に反対する動きもあります。保育園は迷惑なのでしょうか? 反対の声があがる事情を、騒音問題に詳しい専門家の分析を交えて考えます。


【アンケート】長時間労働


千葉県北西部。人口10万足らずの市でこの秋、来春の開設を目指した保育園が計画を断念しました。駅から1キロ足らずの住宅街に市の補助を受ける認可保育園(定員60人)を開く予定でした。


通常は居住者以外、車の出入りのない場所です。園庭は造れず、約100メートル先にある公園を使う計画でした。住民の女性(46)は「なぜこんな田舎でわざわざ園庭のない保育園を造るのか。子どもの成長にとってもよくない」「20人規模の託児所なら歓迎するが、60人もの子どもと、送迎の親が来ると騒音が心配」と反対運動をした理由を話します。別の子育て中の住民も「保育園よりも静かな生活を望む」と反対しました。


業者は「面積、賃料、インフラ整備などすべてを満たす場所は20~30件探してようやく1件あるかどうか」と言います。市の担当者は「事業者は実績もあり信頼して任せた。このエリアに待機児童がいることを市民にきちんと伝えきれなかった」と振り返ります。住民への説明会は開園予定まで1年を切っていて、「時期が遅い」「開園ありきだ」と批判もあったそうです。市側は「具体的な計画が何もない段階で住民に説明はできない」と話します。


一方、建設反対のポスター貼りをしようとした女性(68)は隣の地区の人から「エゴだ」と言われ、不眠が続き、体調を崩したそうです。自分は困っている母親の希望を潰したのだろうか、という思いにさいなまれているそうです。「私たちの時代や、この地域の感覚からすると、保育園というのは園庭があって園児がのびのび遊べて、騒音の心配もない広いもの」と話します。


東京都江東区はこれまで、区内に予定した保育園建設が遅れたり断念に追い込まれたりしたケースはないといいます。区の担当者は「計画発表の段階でつまずかないように」と、開園の計画が固まると、地域に長く貢献している自治会長や町会長への自宅訪問をします。全員と会えるまで何度も足を運んだこともあるそうです。町会に入っていないマンションでは個別の説明会を実施し、地域の合意形成を進めてきました。


「住民の中には、定員200人の保育園と聞くと『毎朝自宅の前に200台の車が並ぶのか』と心配する人もいます。全ての保護者が車で来るわけではなく、園に連れてくる時間もバラバラだと説明すると『そうなのか』と分かってもらえます。丁寧に話して一つ一つご理解頂くしかない」と話します。


江東区を含め首都圏を中心に保育施設を運営する都内の保育事業者の開園担当者(40)は「その土地を一番知っている自治体との連携は、地域の合意形成を進める上で不可欠」と言います。保育園の施設を開放したり、開園前に見学してもらったりすれば、園への理解が深まるとも話しました。(今村優莉)


■音への印象、人間関係次第


保育園建設で、住民の理解を得るにはどうすればいいのでしょうか。騒音問題に詳しい八戸工業大の橋本典久教授(音環境工学)に聞きました。



高齢者や閑静な住宅街に住む人ほど騒音を心配して建設に反対する――。みなさんにはこうしたイメージがあるのではないでしょうか。私もそう思っていました。ところが今年8~10月に実施した騒音の意識調査で、これが覆える結果が出ました。


調査は東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県の様々な地域の一戸建て住宅1927戸が対象で、約18%の341戸が答えてくれました。「あなたの家の隣に保育園建設計画が起こったらどうしますか」との質問に「強く反対する」「反対する」と答えたのは計1割。そもそも反対は多くはなく、高齢者ほど反対するとの相関関係は見られませんでした。住宅街の住民が、商業・工業地域の住民より反対が多いこともなかった。


ではどういう人が反対するのか。「強く反対」と答えた人の全員、「反対」と答えた人の9割超が、「自宅の横に保育園ができると騒音に対する不安を感じるか」との質問に「感じる」と回答しました。


騒音への不安を感じても、子どもが大きな声を出して遊ぶことは心身の発達に大切だとの考えなどから反対しない人も少なからずいますが、不安を感じている人ほど建設に反対する割合が高いといえる結果でした。このため、保育園建設問題では、騒音への不安を和らげることがとても大切だといえます。


必要なのが、保育園ができると実際にどれぐらいの音が出て、防音壁などの対策でどれぐらい音が減るかといった客観的データです。これがないと、実際より大きな音を住民が想像したり、園側の説明があいまいになったりしてしまいます。


2015年に東京都と青森県の様々な規模の保育園10カ所の音レベルを測りました。100人の園児が園庭で遊んでいる時、子どもたちの中心から10メートル離れた場所の音は、騒がしい街頭と同じ程度の約74デシベルでした。一方、子どもの声は甲高く、高い音は防音壁の裏にまわり込みにくいので、その効果が高いこともわかりました。データ以上に大切なのが良い人間関係の構築です。人は、好感を持つ人がたてる音はあまり気にならず、嫌いな人やよく知らない人の音は小さくてもうるさく感じることが調査でわかっています。


園や自治体は早い段階から誠実に対応し、「音が気にならない人間関係」を住民と築いていくことが必要です。不誠実な対応は、住民の「不安」を「怒り」や「敵意」にエスカレートさせる。防音壁で実際の音を小さくしても、住民には変わらずうるさく感じられることがあり、解決はとても難しくなる。


もちろん、誠意を尽くしたと思っても解決が難しいケースもあるでしょう。高層マンションの建設は、事業者が住民に説明し、まとまらない時は第三者が加わる紛争調停委員会が和解案を出す条例を作っている自治体がある。保育園建設にも、第三者を入れる仕組みが必要ではないでしょうか。(聞き手・長富由希子)


■寄せられた意見は


朝日新聞デジタルで11月に実施したアンケートに、保育園と地元の関係などについての意見が寄せられました。


●「私は保育所のすぐそばに住んでいるが、それほど騒音を感じない。子どもたちはずっと外にいるわけではないし、お昼やお昼寝などで室内にいる時間はとても静か。そして夜は確実に静か。おそらく保護者は道路で立ち話をしない、車で登園しないなど約束事があると思われ、そういったトラブルもない。むしろ大人が酔って騒ぐ声が迷惑」(東京都・40代女性)


●「私の住んでいる集合住宅の隣は市立保育園だが騒音など全く問題になったこともない。むしろ隣に保育園がありすぐ近くに小中学もありこんな便利な立地はないと思う。なぜ保育園が問題になるのか理解できない」(大阪府・50代女性)


●「保育園建設についての反対運動が起こると、反対する住民側に寛大さが足りないなどと、反対側が悪者であるかのような論調の記事が多く見受けられるが、一概にそうとも言えないのではないか。近隣の保育園を見ても、お迎え時間には、ずらっと路上駐車の車が並び、近隣に迷惑な状態が続いており、改善する兆しも見られない。保育園利用者側に、働いて子供を育てるのは大変なのだから、少しぐらい迷惑をかけてもいいんだという甘えのようなものがあるのではないか。保育園建設に反対する住民が多いのは、このような保育園利用者側のマナーの悪さも原因となっているということにもきちんと触れて欲しい」(神奈川県・40代女性)


●「子供を放し飼いにしてちゃんとしつけないのに『社会の一員』『手当を寄越せ』など勘違いの極み。良いとこ取りだけして子供がいれば何でも許されると思わないで。まず『公園・校庭以外の公共の場所(特に交通機関)で走り回らない』『大声・奇声を上げさせない』の義務を徹底して果たしてから権利を主張して」(神奈川県・40代女性)


●「会社の近くで保育園のお迎えに来て立ち話を延々していますが、そんなお母さんを見て育った子供は同じことをしています。それもあって保育園建設が嫌がられるのだと私は思っています」(愛知県・40代女性)


●「保育園で子供の遊ぶ声を騒音ととらえたり、電車内のベビーカーを邪魔と思ったりするような大人のゆがんだ心のあり方に問題あり」(海外・40代女性)


●「待機児童の改善につながる保育所の増設について、計画地近隣住民の反対により頓挫したりする例がありますが、子供の声を騒音と認めないよう法令に明記してはどうでしょうか? 子供に寛容でない社会で子供が増えるでしょうか? 子供が減り続けると国が滅ぶのは明白と思いますが、そういった意識を全ての人に持ってもらいたいと思います」(京都府・30代男性)


●「保育園は送り迎えの親の車の問題(駐車場)が一番な問題になる。送迎のバスなどで緩和を図らないと周辺の理解も得られない可能性が。騒音対策は保育指定区域制度などで近隣住民への税制的メリットを国として保証するなど、保育園側が余分なコストや手間をかけなければならない現状を改善する必要あり」(千葉県・30代男性)


●「働きたい母はたくさんいるし、保育園では一人っ子はほとんどいない。介護施設の一角に、必ず保育施設をつくり、空きが出てきたら転用すれば、無駄にならないのでは。子供がいると、お年寄りも楽しいと思うし」(東京都・30代女性)


■反対の人も待機児童問題に背けず


長く保育園づくりを手がけてきた事業者は、子どもの声をストレスに感じる人が年々増えているのではと言います。一方、開設に反対する人も、待機児童問題に真剣に向き合おうとしていることを取材で感じました。アンケートでは9割を超える人が、自宅そばの保育園開設を歓迎するか容認しています。同じ音でも、人間関係によって騒音になったり、気にならなかったり。橋本教授の指摘は、歓迎される保育園づくりのヒントになると感じます。(今村優莉)



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