潮井神社(奥)に祈りを捧げた森川恭一さんは、祭りを続けていきたいと思いを語った=14日午前7時29分、熊本県益城町、福岡亜純撮影
熊本地震の発生から8カ月となる14日の午前7時、大きな被害を受けた熊本県益城町の潮井神社に、近くに住む森川恭一さん(75)が祈りを捧げに来た。大きく崩れた石段を避けて森の斜面をのぼり拝殿にたどり着くと、鈴を鳴らして手を合わせ、深く、一礼した。
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12月14日は、地区の人たちが年に一度、神社にまつられた「水神さま」に感謝を捧げる「座祭り」の日。境内には「地震の脅威を後世に伝えられる」と町が文化財に指定したむき出しの断層が残る。ご神体も地震後に別の神社へ「避難」させたが、森川さんは「やはりここに来て手を合わせないと。この森と土地に神様がおられるという気持ちがあるから」と言う。
12世紀末に創建された神社は住民で管理してきた。境内の水源にはこんこんと水がわき、清水を求める観光客が各地から訪れた。町が2年前から公園として整備を始め、昨秋には住民らが積立金で拝殿を建て直した。そこに地震が襲った。
神社がある杉堂地区には断層の名にもなっている布田川が流れる。多くの家屋が倒壊して住民が応急仮設住宅などに移り、地区内にとどまって暮らしているのは75戸中、十数戸だけだ。
座祭りの日は毎年、住民らがそれぞれ潮井神社に参り、夜にはとりまとめ役が持ち帰る神酒を囲む習わしだ。地区に八つの「組」があるが、今年は集まるのが難しいため座祭りを見送る組が多い。それでも、森川さんの組は「絶やしてはいけない」と少数でも集まることを決めた。
森川さんたちは、寸断された神社への道の代わりにと、9月に臨時の農道を町に頼んで通してもらい、拝殿の柱を入れ直し、草を刈った。地区では防災のために集団移転の話が持ち上がるが、若い人たちに「出て行かんでくれ」と伝えている。「今はまだみんな生活が厳しいが、来年の座祭りには多く集まれるようになっていてほしい」と願う。(平井良和)