冨田真由さんの直筆の手記。「事件に遭った日から時間が止まってしまったかのように、前に進むことが怖くなってしまいました」と記されている
東京都小金井市で今年5月、事前に警察に相談していながら男に刃物で刺され重傷を負った冨田真由さんが発表した手記の内容は次の通り(原文から抜粋)。
「怒り通り越し悲しみ感じる」 被害者、手記で警察批判
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私が被害に遭ったときに、現場で犯人に立ち向かってくれた方、110番通報をしてくださった方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。今私が生きていられるのは、皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
また、被害に遭った後からこれまでの間、警視庁の犯罪被害者支援室の皆様には大変お世話になっていて支援室の皆様にはとても感謝しています。
犯人からのSNSへの書き込みが始まったのは平成26年の6月からでした。特に不安や恐怖を大きく感じるようになったのは、ライブ終了後にストーカー行為をされたことや、生き死にに関する書き込みが1日に何件もくるようになったことがきっかけです。
犯人が急に目の前に現れて殺されそうになったとしても、私も家族も周りの人も素人なので、自分のことや誰かを守る方法は何も知りません。そんな中でも希望を持っていたのが、警察に助けを求めることでした。
警察には、命の危険を感じていることがわかる資料をいくつも持っていきました。生き死にに関する書き込みが頻繁にあること、友人のSNSにも迷惑な書き込みがされていること、ライブ終了後にストーカー行為をされ命の危険を感じていたことを、持っていった資料を見ながら、特に危険だと感じていたものに関してはひとつひとつ説明をし、「殺されるかもしれない」と不安や恐怖を訴えました。ストーカー行為をされたことに関しては、そのときの状況を何度も説明すると、頷(うなず)きながら聞かれていたので、理解してくれたのだと思っていました。相談にいったときに伝え忘れたことはひとつもありません。
警察からの聴取の際、挨拶(あいさつ)が終わった後の最初の言葉が「本当に殺されるかもしれないと言ったんですか」でした。その後も、私が殺されるかもしれないという言葉を言っていないのではないかと何度も聞かれました。でも、「殺されるかもしれない」という言葉を、私は絶対に伝えました。これだけは間違いありません。この事実を警察が認めないことに、怒りを通り越して、悲しみを感じています。
必死に訴えたことが全く伝わらなかった。感じるものに温度差があったとしても、危険性がないと判断されたのは今でも理解できません。私が言ったことをどのように受け取ったのか、相談した担当者に直接話を聞かせてほしいと何度もお願いしてきましたが、組織として対応していますと、一切取り合ってもらえませんでした。
武蔵野署の署長からは形ばかりの謝罪がありましたが、「少しお元気になられたようですが」と、傷つく言葉がかけられました。謝罪をしていただいたからといって傷だらけになった身体が元に戻る訳でもないし、時間を巻き戻せる訳でもありません。それでも、どうして私の相談を真剣に受け止めてくれなかったのか、きちんと理由を説明してもらえるのなら、少しは救われるのかもしれません。
事件に遭った日から時間が止まってしまったかのように、前に進むことが怖くなってしまいました。支えや助けがあること、温かい言葉をかけてくれる人がいることで、きっと大丈夫だと思える勇気をもらい、なんとか毎日を過ごしています。
事件以降も、似たような事件が起こっているのをニュースでみかけますが、その度にとても苦しい気持ちになります。犯人の勝手な思い込みや都合、感情だけで、なくなっていい命はどこにもありません。警察がこの事件のことを本当に反省してくれていないと、また同じことが繰り返されるのではないかと心配です。事件をきっかけに、同じ不安や恐怖を抱えて苦しんでいる人が、安心できるような社会に変わっていってくれたら嬉(うれ)しいです。
平成28年12月16日 冨田真由