児童相談所の事務所に置かれた、木彫りの仏像
■第3章「親と向き合う」(5)
「あんたらの不注意やろ!」。女性が叫んだ。「こんなんだったら連れて帰りますよ」
女性は、母親の虐待が疑われて児童相談所(児相)が一時保護した幼児の祖母だ。久しぶりに会った孫の額に傷があるのを見つけ、声を荒らげたという。20代の母親は隣で黙っていた。
【キーワード】一時保護所
連載「児相の現場から」
「そうですね。すみません」。担当ワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)は頭を下げるしかなかった。傷は一時保護先の施設で転んでできたもので、数日前に母親には伝えてあった。
この日は、一時保護した子どもと母親の関係を切らないようにと児相が続けている2週間に1度の面会の日。母親や祖母らの都合で日曜に設定されている。ケイコは午前9時に出勤、係長と2人で一時保護先に幼児を迎えに行き、母親らの来訪を待った。
この家族と児相は、なかなか難しい関係にある。
子どもの一時保護後も母親の生活態度が改善されたとはいえず、児相は子どもを施設に入れる方針を立てた。だが、母親が同意せず、説得中だ。ケイコと母親とは、なにかと対立しがちだ。
一時保護中の子どもがけがなどをすると、親から苦情が来ることもある。子どもを取り上げられたと、親は児童相談所(児相)に悪感情を抱きがちだが、児相は親との関係を切らないようにと心を砕く。
数日前に額の傷のことを母親に…