B級2組へ昇級した頃の村山さん=1992年3月、大阪市の大阪城近く、森信雄さん撮影
勝負強さから「怪童」と呼ばれ、29歳でがんのため亡くなったプロ将棋棋士の村山聖(さとし)さんが再び脚光を浴びている。生涯を描いたノンフィクションが昨秋に映画化。村山さんをイメージしたキャラクターが登場する漫画も人気を集める。没後19年。なお多くの人をひきつける魅力は――。
早世の29歳が夢見た名人戦 生き様、今も棋士らの心に
「(村山さんが)元気に暮らし続けて、晴れの舞台で将棋を指している姿を描いてあげたいと思った」
将棋をテーマにした人気漫画「3月のライオン」の作者、羽海野(うみの)チカさんは、ファンブック「3月のライオン おさらい読本中級編」でこう記した。
作品には村山さんをモデルにしたキャラクターの二海堂晴信(はるのぶ)が登場する。高校生でプロ棋士の主人公、桐山零のライバルであり親友だ。ふくよかな体形で慢性的な腎臓病を患っている。病をおして将棋に挑む姿が村山さんと重なる。
2007年に「ヤングアニマル」(白泉社)で連載が始まり、11年に「マンガ大賞」を受賞。昨秋にはアニメ化された。今春に公開予定の実写版映画では、俳優の染谷将太さんが二海堂役を演じる。生前の村山さんと親交があり、原作の監修を手がける先崎学九段(46)は単行本のコラムで、桐山と二海堂の対戦は村山さんと谷川浩司九段の対局を題材にしたと説明。「将棋へのひたむきさがある一方、人をからかうように小さいウソをつく人間くさい面もあった」と振り返る。
大崎善生(よしお)さんの同名ノンフィクションを映画化した「聖の青春」は、昨秋の公開後、約30万人を動員。興行収入は3億7千万円(2日現在)に上った。村山さんを演じた松山ケンイチさんは体重を増やして役作りに挑み、ブルーリボン賞主演男優賞を受賞した。
森義隆監督(37)は、今も村山さんが多くの人を引きつける理由について、東日本大震災をきっかけに多くの人が死を身近に感じるようになったことを指摘。「村山さんは死と向き合ったからこそ、将棋に打ち込んで命を燃やし続けた。その人生を知った人が、自分の生き方を問い直すとともにエネルギーをもらっているのだと思う」と語る。
村山さんの存在は、後に続く若手棋士にも大きな影響を与えている。今期のA級順位戦で好成績を上げている稲葉陽(あきら)八段(28)は、「将棋に全てを捧げたすごい棋士」と語る。子どものころ、「聖の青春」を読んだ。稲葉さんの10歳の誕生日が村山さんの亡くなった日だったこともあり、強い感銘を受けたという。夢半ばで亡くなったが、「これ以上ない努力をされた。残念かもしれないが、後悔はないと思う」。
今年、村山さんが亡くなった29歳になる。昨年に映画を見て「全力で将棋に向かう姿勢が今の自分にあるのか」と自問自答した。「村山九段と同じというのは無理でも、自分なりの全力で将棋に打ち込んでいかないといけない」
村山さんが今も脚光を浴びる理由について、稲葉さんはこうみる。「一つのことに全力で打ち込みながら、それを周りにアピールすることもない。すがすがしさを感じさせるからだと思う。そんな人が現代では少なくなってきていることもあるかもしれない」