サッカーJ2のFC岐阜は今季、J2に参入して10年目を迎える。2年連続で残留争いに甘んじるなど低迷が続くチームは、節目を機に、現場とフロントが一体となって定位置からの脱却を図ろうとしている。
「サッカー会社なんだから現場が頑張らないと。成績を上げるしかないんだよ」。今季から指揮を執る大木武監督(55)は、宮崎市内で春季キャンプが始まった1日、選手に発破をかけた。「残留できてよかった、と選手が堂々と歩いている。大きな間違い」
FC岐阜は2011年に最下位の20位に沈んで以降、低迷が続く。14年に元日本代表のラモス瑠偉監督が就任。個の力を重視した攻撃サッカーを掲げたが、その分、守備のほころびが目立った。成績不振で昨年7月に解任。チームは2年連続で22チーム中20位、リーグ最多失点に終わった。
大木監督は、05年にヴァンフォーレ甲府をJ1に昇格させ、08~10年には日本代表コーチを務めた。宮田博之社長は「たくさんの課題を抱えた岐阜を引っ張り上げるのに十分なキャリアの持ち主」と期待を寄せる。
まずリーグで中位を狙い、上位争いをできる基盤をつくる年と位置づける。大木監督のもとで目指すのは「攻守の切り替えが早いサッカー」だ。キャンプでも「切り替え!」という言葉が飛び交った。3日の練習試合では、韓国王者のFCソウル相手に90分間で1―1と健闘。大木監督は「何が良かったって、切り替えだよ。失敗、成功は別として、やろうとしている」と手応えを口にした。
選手らの人件費は年間約5億円前後。今季、J2に降格した名古屋グランパスの4分の1しかない。その中で大木監督だけでなく、J2レノファ山口の柱だったMF庄司悦大(よしひろ)選手(27)や、スペイン1部リーグで活躍したMFシシーニョ選手(30)を獲得した。高本詞史チーム統括部長は「最後は『頼むからチームを変えてくれ』と口説いた。お金のためではなく、熱意のある人が集まってくれた」と明かす。
「会社も変わるから、君たちも変わってくれ」と選手に訴える宮田社長は、クラブの運営面にもてこ入れをした。スタッフ約30人の半数を配置換え。「新しい視点でみれば、思わぬアイデアが浮かぶから」。低迷しつつも、J2に踏みとどまってきたしぶとさを逆手にとって「落ちないお守り」を制作。J2残留を決めた昨季最終戦のチケットの半券を封入した。受験生らに好評で、限定1千個が売り切れ間近という。
ラモス効果で14年に約15万9千人を記録した後、下降線をたどっている観客動員数の回復も目指す。10年目にちなみ、ゴール裏自由席の前売りチケットを昨季より700円安い1千円で販売する。
児童養護施設の訪問や交通安全、献血の呼びかけといった地域貢献活動にも、これまで以上に選手を参加させる。選手を身近に感じてもらうことで、スタジアムに足を運ぶファンを増やす狙いもある。選手の負担は増えるが、昨季、名古屋から移籍したGK高木義成選手(37)は「J2の下の方のチームは、こういうこともやらなきゃいけない。負担だとは思わない」。
本拠に、昨季の2万1千人増の14万人を呼び込むのが目標だ。宮田社長は「何より、大木監督のサッカーを見れば、またスタジアムに来たいと思ってもらえるはず」と呼びかけている。(金島淑華)