(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
■みちのものがたり:すずさんが歩いた道(広島県)
写真特集「この世界の片隅に」舞台を巡る
連載「みちのものがたり」
映画を見た帰り道、ふっと涙が出て止まらなくなった。ここがよかった、と一口で言うのは難しい。が、なんともいえない感動にくるまれる。時を置いて涙が出る。
「この世界の片隅に」。こうの史代さんの漫画が原作のアニメ映画である。すずさんという絵が好きな、普通の、明るい女性に焦点を当て、戦前から終戦直後までを描く。
地味なテーマだったからだろう、資金集めに苦労した。ネット上のクラウドファンディング(一般からの資金調達)を足がかりにようやく完成、昨年11月に封切られた。上映館は30都道府県の63館に過ぎなかった。
ところが、そこから快進撃が始まる。口コミやSNSで「この映画いい。ぜひ見て!」などと反響が広がったのだ。2016年のキネマ旬報ベスト・テンでは大ヒットした「シン・ゴジラ」(2位)や「君の名は。」(圏外)を抑えて日本映画の1位に。上映館は増え続け、2月下旬で301館に達している。
主な舞台は広島県呉市。すずさんは1925(大正14)年、広島市に生まれた。のどかな日常に戦争の足音が近づき、41年日米開戦。戦争末期の44年2月、結婚して呉にやってくる。作中の住所は上長ノ木。呉の後背にそそり立つ灰ケ峰の麓(ふもと)である。
片渕須直監督(56)は、「当…