1月2日には神戸中央シニアのOBがそれぞれの高校のユニホーム姿で集まった
高校野球の裾野である中学野球でいま、異変が起きている。少子化の中で硬式、軟式、そしてそれぞれに「格差」が広がる。今春の選抜に出場する選手たちの出身チームなどを訪ね、現状を見た。
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全国制覇4度の大阪桐蔭、昨春の選抜を制した智弁学園(奈良)に秋の明治神宮大会準優勝の早稲田実(東京)……。豪華なユニホームやジャージー姿が続々とグラウンドに現れた。
ここは甲子園ではない。中学硬式野球の強豪、神戸中央シニアのグラウンド(神戸市西区)だ。1月2日の練習始め。全国の強豪高校に散らばったOBたちが、正月休みを利用してあいさつに帰ってきた。
「各校合わせると、今回の選抜にOBが7~10人ほどメンバー入りするんじゃないか」。同シニアの山田高広監督(41)は誇らしげだ。
その中に、2年連続出場となる滋賀学園の中堅手、真藤司の姿もあった。「選抜が楽しみ。ずっとあそこに立ちたいと思っていた」。昨秋の近畿大会では本塁打も放った1番打者。近畿で4強入りしたチームで1、2の飛距離を誇り、身体能力も高い。それでも、「神戸中央シニアでは、試合に出たり出られなかったりだった」と言う。
シニア時代の仲間には、智弁学園で昨春も主力で活躍した太田英毅や大阪桐蔭で1年夏からベンチ入りした香川麗爾らがいる。その陰に隠れていた真藤だが、高校に入って急成長した。山田監督が言う。「うちでは補欠でも、高校にいってからレギュラーになる選手はたくさんいます」
同シニアには1学年25人ほどの選手がいる。そのほぼ全員が、いわゆる野球推薦で高校へ進学する。今の高校2年生の代は27人中26人、1年生は26人全員が推薦で強豪校へ入った。進学先は、北は青森から南は鹿児島まで様々だ。
練習は厳しい。土日や祝日は、3面ある専用グラウンドで朝8時から夜8時まで全体練習。その後に自主練習をする選手もいる。大学や社会人野球を経験した十数人が指導にあたる。
チームの方針は「できるまでやる」。大会での勝利より、野球選手として高校、大学で頑張れる下地を作るのが最大の目的だ。だから、レギュラーか補欠かにかかわらず、全員が平等に練習できる。体づくりのため、昼食のほかに、午前10時、午後3時、午後6時におにぎりや麺類などの補食をとり、夜8時にはプロテインも摂取する。
山田監督が思いを語る。「高校野球は社会へ出るための修業の場。甲子園を目指す環境で3年間、しっかり野球を続けられれば、人間として成長できる。その高校野球へ送り出すのが、我々の役目」。過去7、8年、OBが誰一人として高校で途中退部していないことがチームの誇りだ。
真藤の父浩司さん(41)は言う。「司は小学生の頃から走ったり跳んだりという能力が高く、勉強よりは野球に可能性を感じていた」。小学6年の冬に同シニアの体験練習に連れて行ったのは、「上のレベルを目指すなら中学の部活動よりもシニアでやるほうがいいのでは」と考えたから。
本人も「頑張りたい」と希望して入団。厳しい練習に「しんどい」と漏らすことはあっても「やめたい」とは一度も言わなかった。
「あの環境があったから、司もなまけることなくできた。体も大きくなり、しっかりしたなと思います」と浩司さん。真藤も「中学時代に厳しい練習、激しい競争の中でやり抜けたことで、技術も内面も成長できたと思う」。
■小学生の野球離れに懸念
ボーイズやリトルシニアなど様々なリーグが共存する中学世代の硬式野球。少子化にあって、軟式は選手数を大きく減らしているのに対し、硬式の落ち込みはさほどない。ボーイズリーグを所管する日本少年野球連盟(本部・大阪)の藤田英輝会長(75)は「熱心でレベルの高い指導者のところに子どもたちは集まる。その点、軟式は指導者が不足していると聞く」と話す。
硬式チームの間でも、選手数や練習環境などで「格差」は広がっている。ただ、それよりも藤田会長が懸念しているのは、小学生の野球離れだ。ボーイズの小学生部門の人数は2010年に3755人だったが、16年は1889人と半減した。同連盟はチーム新設の申請を簡略化するなど門戸を広げている。(山口史朗、小俣勇貴)