退位をめぐる推移と主な出来事
天皇陛下の退位をめぐり、宮内庁と首相官邸が初めて正面から向き合ったのは、2015年秋のことだった。
初報「事実無根ではない」 退位、陛下の揺るがぬ信念
「12月23日の陛下の誕生日会見で、お気持ちを表明していただこうと思っています」。この頃、宮内庁の風岡典之長官(当時)が、首相官邸の杉田和博官房副長官に陛下が退位の意向を持っていることを伝えた。
「何とか、お待ちいただけないか」。寝耳に水だった杉田氏は、とっさにそう反応した。一度でも退位を認めれば、皇位継承のあり方が根底から崩れかねない――。難色を示した背景にはそんな思いがあった。
戦後間もない1947年に制定された皇室典範は、天皇の逝去によってのみ皇位が継承されると定める。明治時代に定まった「終身在位」の原則は、退位が時に政争の具ともなった歴史を鑑みた制度で、象徴天皇制となった新憲法下でも受け継がれた。政府内では、皇位継承順位が誰の意思も介在せず自動的に決まることが、皇室安定の基盤だという捉え方が強かった。
天皇誕生日に合わせたお気持ち表明は官邸の慎重姿勢もあって見送られた。だが、退位を望む陛下の意向は強く、官邸も何らかの対策は必要だと考えていた。杉田氏と風岡氏は、公務の負担軽減に向けた検討を水面下で進めることでいったん折り合った。
「摂政の要件を緩和することで、退位の意向を押しとどめられないか」。官邸幹部らはまず、摂政を設けて陛下の負担を減らし、情勢を見極めようとした。
ただ、いまの皇室典範が定める…