自宅に置かれたジオラマ。山を挟んだふたつの街を、東北新幹線「はやぶさ」が走る(川村広和さん提供)
仙台市青葉区の低層マンション。2LDKの一室に、一畳分の鉄道模型のジオラマが置かれている。川村広和(ひろかず)さん(34)と早代(さよ)さん(34)が、2人でゆっくり作り上げた。
大学時代、演劇サークルで知り合った。互いに好意を寄せながら、思いを伝えられずに卒業。広和さんは東北大学で研究職に就き、早代さんは実家のある埼玉県所沢市に残った。
6年前。サークルの同級生に背中を押され、早代さんが電話をかけた。「元気にしてる?」。メールを交わすようになり、1年後に初めてのデート。「また会おう」。広和さんの言葉で交際が始まった。
週末、東北新幹線の「はやぶさ」が2人をつないだ。早代さんは社会人になってから、鉄道旅行が趣味に。同じ時を過ごすうち、広和さんも電車好きになった。ホームで新幹線を待つ時間も、2人にはデートだった。
まもなく、広和さんは仙台市の自室にジオラマのボードを買った。最初に楕円(だえん)形のレールを敷き、「はやぶさ」の模型を走らせた。遊びに行くたび、早代さんは街づくりを手伝った。駅を置き、道をつくり、木を植えて。
真ん中には大きな山がある。山を境に、一方には高い塔をたてた。仙台市内にそびえるテレビ塔だ。反対側には、桜のわきに飛行機の模型。所沢市にある航空記念公園を模した。ふたつの街を行き来するように、「はやぶさ」が走る。
2年前の春、ジオラマの前で広和さんが言った。「結婚してください」
ジオラマはまだ完成していない。11カ月前に生まれた長女の百永(もえ)ちゃんがいたずらしないよう、大切にしまってある。
「遊べるようになったら、一緒に完成させたい。いつか、ひとつの街になるように」(牛尾梓)