狙った通りの遺伝子を改変できるゲノム編集をヒト受精卵などに使う研究の審査のあり方をめぐり、内閣府と関連学会が対立している。国の責任で審査するよう求める学会に対し、内閣府は「協力する立場」との見解を崩していない。反発した学会側は17日、研究の妥当性などを審査する合同の委員会の解散を決定し、内閣府に伝えた。事態が改善しなければ、十分な倫理審査を経ない研究が行われる可能性も出てくる。
これまで学会側は、政府の生命倫理専門調査会が昨年出した基本方針を受けて、審査のためのマニュアルの原案を作成するなど、積極的に協力する意向を示してきた。ただ、学会に所属しない研究者にも倫理的なルールを守ってもらうことが欠かせないと指摘。「学会員にとどまらない影響力を確保するためにも国のお墨付きが必要だ」として、国の責任で審査を実施するよう求めていた。今月10日に開かれた生命倫理に関する方向性を提言する生命倫理専門調査会も、学会の意向を了承する姿勢を示していた。
だが、政府側事務局の内閣府は、「国は学会に協力する立場」との説明を続けている。オブザーバーであり主体的な責任は学会にあるとの見解も崩さない。
学会側は国の姿勢が信頼関係を崩したとし、中核の関連4学会理事長で先週末に協議。全員一致で委員会の解散を決定し、17日付で内閣府に伝えた。
学会側は「責任の所在もあいまいで、きちんとした審査ができない。ゲノム編集は日進月歩で、早急な対応が必要であることは確か。仕切り直して、改めて体制を整備するべきだ」と話している。
生命倫理専門調査会の原山優子会長は「事務局の説明をすべて把握しているわけではないが、調査会としての方針こそが重要。国の責任のもとで整備できるよう、学会側ときちんと話をしていきたい」と話す。
ゲノム編集については、昨年4月、生命倫理専門調査会が、受精卵を使った研究の部分的な容認も視野に入れた中間とりまとめを作成。時間のかかる指針作成を当面見送る一方、日本産科婦人科学会や日本人類遺伝学会など合計6学会の協力を得て審査をする方向で体制を整備する方針を決定。今月10日の生命倫理専門調査会で、学会合同の委員会発足を報告したばかりだった。(竹石涼子、佐藤建仁)