「Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY Dance Installation “phosphere”」の演出で使用したレーザー光線の中に立つ=東京都文京区、西畑志朗撮影
■エンジニア集団「ライゾマティクスリサーチ」主宰
【タイムライン】リオ五輪・最終日の様子
拍動しながら図形を結ぶレーザーの光が、女性ダンサーの背後に吸い込まれた。やがて、逆光で踊るシルエットから光の分身が生まれ、ひとりでに踊り出す。まるで、生命の躍動が光に宿ったかのようだ。
主宰するエンジニア集団「ライゾマティクスリサーチ」と、演出家で振付師のMIKIKOさん率いるダンスカンパニー「イレブンプレイ」との新作ダンス・インスタレーション「phosphere(フォスフィア)」(「光の領域」を意味する造語)のクライマックスの一場面だ。
「テクノロジーと人がまじわることで新しい表現が生まれるんじゃないかと。技術開発を通じてまだ誰もやっていない表現に挑戦しています」
テレビゲームに熱中し、小学校高学年で独学でプログラム。中高時代はDJやバンド活動に熱中するが「うまい下手など、明確な物差しがあるものをやりたがる節があり」、進学した東京理科大学では数学を学ぶ。大手電機メーカー勤務などを経てアートスクールで学び、2006年に学生時代の友人らとライゾマティクスを設立した。
08年、顔に電極をつけて微弱電流で筋肉を動かし、表情を操作するパフォーマンスをYouTubeに発表。瞬く間に名前は世界に広がった。近年はソフト、ハードなどすべてが自前の「フルスタック集団」に。参加したリオ五輪閉会式のセレモニーや、紅白歌合戦でのPerfumeの舞台の技術演出など、お茶の間でも彼らの仕事を目にする機会が増えた。一発勝負の「生」の表現には地道な準備と緻密(ちみつ)な調整が欠かせない。「ものすごい知恵をみんなで出し合う」
昨年、会社設立10周年で、技術開発やアート表現のためのリサーチ部門などを作った。18人いるチームをともに率いる石橋素(もとい)さんは「表現の土台をつくってあとは真鍋に任せれば、一番いい形で格好いいものを作ってくれる。互いの作業を『がっちゃんこ』する瞬間はぞくぞくする」と話す。
文化施設、NTTインターコミュニケーション・センターの主任学芸員、畠中実さんは「今はCGで何でもできるが、彼らは生のパフォーマンスでイメージを生成したり、ドローンを制御したり、未知のものを作り出している。そして、まだ気付かれていない芸術表現を技術の側から切り開いている」。
約4週間の準備を経た公演期間はわずか2日。終演後、「寂しい」と話す。今後の目標を聞くと「現状維持」と答えた。「研究開発を続けることで初めて良いものができる。小さなプロジェクトで得た知見の積み重ねが大きなステージにもつながります」(真田香菜子)