動画の出だしはモノクロで暗いトーン
スーパーもファミリーレストランもない。外国人観光客も、ほぼいない――。和歌山県紀美野町が、町に「ない」ものをあえて取り上げる独自の動画をつくり、魅力を発信している。
坂道をゆっくりのぼるトラックをモノクロで映しながら、「電車は、ない」と字幕が流れる。その後も、「ネイルサロンもない」「何にもない」とたたみかける。ただ、次第に画面が白黒から色鮮やかに変わっていく。「ゲーセンもない」という説明の後には、自然の中ではしゃぐ親子の映像。一面のススキが風にそよぐ生石(おいし)高原の絶景も映し、「遮るものは、ない」と表現した。
「最高の『ない』がここにある」という2分20秒ほどの作品で、町が昨年1月から動画投稿サイトユーチューブで配信している。町出身で町産業課主事の中谷雅文さん(31)は「町内の人から見ると、何にもない町。(動画で)外から見るといいものあるなと気づいた」と話す。
町内外で動画が話題になり、3月末には新たに「訪日外国人観光客『ゼロ』の町」という約3分半の動画を公開した。日本有数の星の名所「みさと天文台」から見える星空を「美しさに説明は『ゼロ』」と紹介したり、「町の騒音は『ゼロ』」と豊かな自然を表したりと、「ない」に注目した第1弾の視点を引き継いだ。外国人観光客向けに英語、中国語、韓国語のナレーションをつけている。
県が3月発表した観光客動態調査の速報値では、2016年の外国人宿泊者数は県全体で約50万人。1959年の調査開始以来、史上最高を記録した。
一方で町によると、町内で宿泊した外国人はそのうち0・03%にあたる152人だった。中谷さんは「今は訪れる外国人がほぼゼロに近いが、動画を見て多くの人に来てもらいたい。オシャレな穴場カフェも多いので、都会に飽きた人におすすめ。車通りも少なく、秘境感を楽しめる」と話している。動画はユーチューブの「公式チャンネル紀美野町」から。(杢田光)