投球比較(安楽智大と三浦銀二)
延長戦や連戦、酷暑の中の投球……。厳しい状況の下で勝利を目指す投手の未来を守るために、何が必要か。
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「夏に向けて徐々に上げていこうと思っています」。福岡大大濠のエース三浦銀二の表情は明るかった。5月25日、捕手を立たせての投球練習。力強い直球がミットをたたいた。
引き分け再試合を含み、3試合で475球を投げた今春の選抜大会から2カ月。三浦は肩やひじを痛めることなく、日々の練習に取り組んでいる。
選抜では滋賀学園との2回戦で延長15回を完投。196球を投げた。「試合中は疲れも感じず、何回でもいける感じだった」
宿舎に帰って昼寝をして目が覚めると、「体がガチガチだった」。試合後はいつも感じる以上に肩、ひじ、背中、左の太もも裏が張っていた。近くの整骨院で電気治療を受け、風呂に1時間ほどつかり、夜は9時前に寝た。
元々、試合を重ねて調子を上げるタイプ。2日後の再試合は「投げているうちに張りが取れ、終盤の方が腕が振れた」と130球で完投勝ちした。連戦となった準々決勝の朝は体全体がだるかったが、八木啓伸監督に「投げられます」と申し出た。
が、先発メンバーにその名はなかった。昨秋以降、公式戦で三浦が先発しないのは初めてだった。状態を見た理学療法士は「投げられる」と助言したが、監督は「優勝するためにどうすべきか考えた。どこかで休ませる必要があった」。試合中、三浦がブルペンに向かおうとすると止めた。エースは出場せず、チームは敗れた。
大会後、三浦は監督の指示で約2週間ブルペンに入らず、軽いキャッチボールのみで過ごした。ひじや背中の張りが完全に取れたのは福岡に戻ってから約10日後だった。
■半年後激痛襲う
三浦より、300球近く多く投げた2年生投手が4年前にいた。2013年選抜で準優勝した済美(愛媛)の安楽智大(現楽天)。全5試合に先発し、9日間で772球を投げた。
準々決勝からは3連投。大会中はこまめにマッサージを受け、酸素カプセルにも入ったが、「張り詰めた中、短い間隔での投球。少なからず、肩やひじに炎症は起きていたと思う」。
決勝前夜、上甲正典監督(故人)から「投げない方がいいんじゃないか」と問われたが、志願した。6回9失点。この大会、初めてマウンドを譲った。
大会後の精密検査は「異常なし」。半年後、9月下旬にあった秋季県大会1回戦の一回、投球練習で右ひじにぴりっと電気が走るような感覚が襲った。三回には激痛に変わった。右ひじ側副靱帯(じんたい)の部分断裂。全力投球できるまでに回復したのは翌年の夏の大会が始まる直前だった。
選抜での連投との因果関係は分からない。安楽は「関係ない」と言うが、こうも考える。「そう言い聞かせたいのかもしれない。(疲労の)蓄積が出たという部分はあったかも」
今春の選抜は雨や再試合などで大会期間が2日延びることになった時点で、休養日が大会規定により消滅した。仮に三浦が投げ続け、大濠が勝ち進んでいたとしたら4連投となる可能性があった。
三浦は3連投以上した経験はない。「準々決勝も投げたかったという気持ちは今もあります」と言う一方で、「けがをしたら、という怖さはあったけど、考えないようにしていた。監督が防いでくれたのかな」。
八木監督は「目の前に試合があれば、選手は感情的になる。指導者としては我慢させることも必要だし、非科学的ではあるけれど、選手の気持ちに応えてやることも必要」。ベストの選択は何なのか。判断の難しさを今も感じる。(山口史朗)