平昌五輪で使われるスキージャンプ台の下に立つ池上彰さん
来年に韓国で開かれる平昌(ピョンチャン)冬季五輪・パラリンピックに向け、ジャーナリストの池上彰さんが韓国を取材するシリーズ。第1回は、大統領選挙のさなかに平昌の競技会場やソウルの中心街を訪ね、見えてきた韓国の実情をルポする。
風が吹いている。穏やかな風だが、時折風向きが変わる。強く吹くこともある。山間に広がるスキージャンプ台の横に来た。遠くに見える山の尾根には風力発電用の風車が並んでいる。ここは強い風が吹く。風力発電には絶好の場所だ。が、スキーのジャンプ競技の場所としては、どうなのか。
来年2月に韓国で開催される冬季オリンピック。その主会場となる平昌にやってきた。これから2月に向けて、不定期の掲載になるが、変貌(へんぼう)するであろう韓国の様子をお伝えしたい。
■整備は進むが、その後は
今回韓国を訪れたのは5月初旬。大統領選挙の最中だった。
緑が芽吹き始めた韓国北東部の山岳地帯の麓(ふもと)。ここに平昌の街はある。場所は、日本で韓流ブームを巻き起こした「冬のソナタ」の舞台である春川(チュンチョン)の近くと言えば、わかる方もおられるだろう。
この周辺は、これまで韓国の経済発展から取り残されてきた。地元には、オリンピック開催を機に発展したいと願う人たちがいる。オリンピックの開催で遅れていたインフラ整備を進めようとしていた長野県のことを思い出す。長野オリンピック開催を機に北陸新幹線が長野駅までやってきた。高速道路も整備された。
しかし、オリンピックが終わった後、残された施設の維持に巨額の負担がのしかかる。
韓国も高速道路の整備が進み、首都ソウルから平昌まで自動車で約2時間の距離となった。仁川(インチョン)空港と1時間半で結ぶ高速鉄道も秋には完成する。
それはいいが、オリンピック後は大丈夫なのか。
会場の整備は順調に進んでいる。強風を考慮して、スキージャンプ台の横には風よけの幕が取りつけられる。これで風の影響が少なくなればいいが。
ジャンプ台のスタート地点には展望台がつくられた。これなら、オリンピックが終わっても、観光客が来てくれるだろうという算段だ。展望台の中にはちょっとした休憩所がある。くつろいでいた家族連れに話を聞いた。ソウル近郊から見物に来たという。両親と子ども2人、それに祖父母の計6人だ。
――韓国国内では冬季オリンピックのムードが盛り上がっていないと聞きますが、どうですか?
お母さんは、何といえばいいか言葉を探すが、答えに窮して傍らのお父さんに任せる。お父さんは、滔々(とうとう)と話し始める。
「冬季競技の場合、底辺が広がっていません。いくつかの競技で頭角を現す選手が出てきて、少しずつ一つ一つの種目に関心を持つようになっています。当初はフィギュアスケートだけ関心がありましたが、今はいろいろな種目への関心が増しているようです。ここに来て、競技場が建ったのを見れば、もうすぐだなと実感しました」