写真6 iPad Pro 10.5インチと日本語キーボードの組み合わせ。日本語での入力効率はこれでかなり改善する
6月13日から日本でも、新しいiPad Proの販売が始まります。今回、10.5インチと12.9インチのディスプレーを搭載した二つのモデルが登場しますが、そのうち10.5インチのモデルについての製品レビューをお届けします(写真1)。
フォトギャラリー 新iPad Proを写真で確認
一見、サイズが変わっただけですが、実際に使ってみると、多くの点で改良されています。アップルは秋に新OS「iOS11」を公開する予定で、そこではiPadの使い勝手を向上する様々な機能が追加されます。それも見据えた新モデルが今回のiPad Proなのです。使い勝手をチェックしてみましょう。12.9インチの既存のiPad Proと比較をしながらお伝えします。(ライター・西田宗千佳)
■ディスプレーを大型化、でもボディーはほぼ同サイズ
10.5インチiPad Pro最大の変化は、もちろんディスプレーです。従来、iPadの中心サイズは9.7インチで、これは2010年にiPadがデビューして以来、変わっていませんでした。しかし今回はディスプレーサイズを約20%拡大し、10.5インチとしています(写真2)。この差は意外と大きいもの。手で持ってみると「かなり違うな」という印象を受けます。9.7インチiPadは、だいたい文庫本を開いたようなディスプレーサイズだったのですが、それがひとまわり大きくなったというと、イメージがわきやすいかと思います。ちなみに、12.9インチのiPad Proは一般的なコミック単行本を見開きにしたようなサイズで、さらに大きいものです。こちらのサイズは新型でも変わっていません。
サイズが大きくなったのに伴い、ディスプレーの解像度も変更になりました。9.7型は2048×1536ドットだったのですが、10.5型は2224×1668ドットと、一回り増えています。しかし画素の密度は同じ264ppi(ピクセル・パー・インチ)で変わっていませんから、間延びした印象はありません。ちなみに、12.9インチは2732×2048ドットですが、こちらも264ppi。同じ画素密度でサイズだけが変わっているわけです。
ディスプレーサイズが大きくなった分、本体サイズも大きくなっています。とはいえ、そのわりには本体サイズの差はかなり小さなものです(写真3)。比べると縦方向に大きくなっているのがわかるのですが、逆に言えば比べないとわかりづらい程度のものです。重量も30グラムしか重くなっていません。側面のフレームが細くなったので、その分コンパクトに仕上げられているということのようです。
タブレットのフレーム幅が広くなった理由は、画面に指がかかるとタッチの誤動作が増えるということだったのですが、10.5インチiPad Proを使ってみる限り、誤動作は見られませんでした。またiPadの使い方についても、横に長い形で持って使う用途が増えていく傾向にあり、それを考えた上でのデザインと言えるかも知れません。この辺の事情については、また説明します。
■「120ヘルツ駆動」でなめらか、ペン描画はさらに劇的な高速化
ディスプレーはサイズが変わっただけではありません。品質が大きく向上しています。最大輝度が600nit(輝度の単位で、1平方メートルあたりのカンデラ数)と、既存のiPad Proに比べ15%明るくなりましたが、より価値が大きいのは、ディスプレーのリフレッシュレートが最大120ヘルツになったことです。これがどうプラスなのか? 要は、よりiPadが快適に操作できるようになったということです。
リフレッシュレートとはディスプレーに表示される画像の書き換え頻度のことで、これが多いほど人にはなめらかな映像に見えます。一般的に、パソコンやスマートフォン、タブレットのディスプレーは1秒間に60回、すなわち60ヘルツで描画されており、これはiPadもずっとかわっていません。
しかし新しいiPad Proではこれが最大で120ヘルツ、すなわち倍に変わります。120ヘルツへの変化により、スクロールなどはより表示がなめらかになります。高速スクロール中、従来は残像で流れたように見えて読めなかった文字も、今回のモデルでは読むことができます。
「今だって十分なめらかだし、120ヘルツになっても私には差がわかるとは思えない」。そう思う人もいるでしょう。でも新モデルの変化は、多くの人にわかるものになっています。なぜなら、ディスプレーのリフレッシュレートが変わることで、我々の操作への反応も速くなるからです。スクロールさせてタッチして画面を止めるという操作は頻繁に行いますが、その時の「キビキビ感」「指にピッタリ吸い付く感じ」が上がっていると言えばいいでしょうか。
画面の書き換え頻度が上がるということは、こちらの操作に対する反応=画面の表示に反映されるまでの時間が短くなるということに他なりません。裏側で遅延なく処理が行われていれば、画面の書き換え速度が速いほど、我々の指に対する反応も速くなったように感じるのです。
このことは、タッチ以上に「ペン」で効いてきます。新しいiPad Proでは、Apple Pencil(アップルペンシル)で手書きができますが、その時、ペンを画面につけてから画面に線が出るまでの時間(描画遅延といいます)が、これまでのものよりさらに短くなっているのです。アップルは「20ミリ秒」としていますが、それではわからないので、動画を作成しました。記事に添付の動画をご覧ください。この動画は、毎秒240コマで撮影したもの(一般的な毎秒30コマを基準とした場合、約8倍速)。比較対象は2015年秋発売の12.9インチiPad Proですが、一目瞭然の違いがあります。2015年、2016年モデルのiPad Proでは、ペンを検知するためのリフレッシュレートが240ヘルツでした。しかし新型では、それが倍になります。画面のリフレッシュレートの再設計とともに、ペンのリフレッシュレートも上げたため、描画遅延がぐっと短くなったわけです。このことは、画面書き換え速度の高速化と合わせ、ペンに対する遅延低減に大きく寄与します。
誤解がないように説明しておきたいのですが、2015年、2016年モデルのiPad Proでも、描画遅延はかなり短く、業界最高レベルのものでした。多くのイラストレーターはその点を評価しています。しかしそれでも紙にペンで書くのに比べれば、わずかに遅れていました。今回ディスプレーに改良を加えることで、さらに描き心地をよくしたわけです。
しかもこの改良は、全ての既存アプリで自動的に働きます。先ほどの動画も、後半は新しいiPad Pro向けに最適化されていない、既存のアプリでの結果です。またアップルペンシルもモデルチェンジしておらず、今までのものがそのまま使えます。
120ヘルツ化することの欠点は、消費電力が大きくなることです。しかし新しいiPad Proでは、常に120ヘルツで動かすのではなく、操作していない時には自動で24ヘルツや30ヘルツといった値までリフレッシュレートを落とす機能を持っています。リフレッシュレートを落とせば消費電力は抑えられるので、この機能により、トータルでの消費電力は上がらないように設計されているわけです。カタログ上の動作時間は同じ10時間で、使っている限りにおいては、新型だからといって、顕著にバッテリーの減りが速いという印象はありません。