空き缶を持って鴨川沿いを歩くホームレス。実刑判決を受けた男性も空き缶を毎日拾っては換金していた=京都市内
刑務所を出た2日後に自転車を盗んだホームレスの男性(68)に京都地裁は先月、懲役2年2カ月の実刑判決を言い渡した。だが、男性は、刑務所に戻ることが苦にはならないと話す。自分を待つ人も行き場もなく、出所を喜んだこともないという。
4月末の初公判。被告人質問に立つ女性検察官の口調は次第に厳しくなった。
検察官「出所直後に自転車を盗んで、逮捕されると思わなかったんですか」
男性「足が痛くて……」
検察官「盗むしかなかったってこと?」
男性「お金もなくて。どうしようもなかったです」
背筋を伸ばして質問に答えてはいるが、積極的に反省の言葉が出てこない。
男性はホームレス生活と刑務所暮らしを20年以上繰り返してきた。窃盗など前科は12犯。自転車を盗んだ罪で8カ月収容されていた神戸刑務所を3月6日に出所した。その2日後、東山区の路上で自転車を盗み、逮捕された。
罪の意識はあったのか。京都拘置所で面会に応じた男性に尋ねた。「その瞬間は悪いとは思うけど……」と一瞬黙り、「家はなくても食べなきゃいけなくて」と続けた。刑務所で得た作業報奨金の5千円は、京都に戻る電車賃やラーメン代などに消えた。40代で離婚し家族も家もない。かつて過ごした鴨川の橋の下に行くほかなかった。
出所2日後、午後から換金目的で空き缶拾いに出かけた。だが、この日に限って缶が少ない。買い取ってくれる店は午後6時に閉まる。焦って探し回るうちに、自分の自転車を見失った。足はパンパン。そんな時、無施錠の自転車を見つけた。何とか見つけ出した空き缶を載せて店へ。500円を手に入れた。
お金が底をつくたびに、男性は空き缶拾いをしたり、アルミサッシなどを盗んだりしては換金し、生活してきた。50代のころ、区役所で生活保護を申請しようとしたことがある。窓口の担当者に「まだ働けるでしょう」と言われ、「どこも前科者なんて雇ってくれないから困っているんだ」とぶちまけたこともあった。
「味付けは薄いけどメシも出るから」。刑務所に戻ることが決まっても男性に悲壮感はない。でも、出所する時はうれしいんでしょう? 「うれしいと思ったことはないかな。行き場もないし、寝場所から心配しなくちゃいけないから」
判決で「規範意識の欠如は明らか」と非難された男性が、面会時に語気を強めた場面がある。お金を奪おうと思ったことはないのか、と尋ねた時だ。「俺はカネはなくても、空き巣やひったくりをしたことは一度もない。人として嫌だ」