オーストラリアで2度目の世界戦に挑む帝里木下
国際ボクシング連盟(IBF)スーパーフライ級3位の帝里(ている)木下(31)=千里馬神戸=が7月2日、オーストラリアで王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に挑戦する。3年ぶり2度目の世界挑戦に、帝里は「背水の陣でいきます」と腹をくくっている。
「やっときたか、っていう気持ちです。早く戦いたい。それしかないです」。当初は今年1月に前同級王者との挑戦者決定戦に臨むはずだった。しかしこれが相手側の都合で延期になり、結局流れた。その帝里に、ようやくチャンスが訪れた。昨年8月以来のリングに上がる。
すべては3年前の後悔から始まっている。IBFスーパーフライ級6位だった2014年7月、神戸で同級1位のゾラニ・テテ(南アフリカ)と王座決定戦を戦ったが、大差の判定負け。「なんでもっと攻めにいかんかったんか。後悔しかないです。そこまで20戦無敗で、自分の力だけで勝ってきたと勘違いして、人の話も聞かんと、『試合になったらどうにかなる』っていう変な自信があったんです。しかも試合直前に体調を崩して、みんなに迷惑までかけて。ほんまに何もできんかった……」
プロ唯一の敗戦が帝里を変えた。周りの人の話に耳を傾け、アドバイスはすぐ実行に移した。「やることをやってきたから、試合直前でも普通でいられる。気負ってもしゃあないから」
アンカハスは帝里と同じ左のボクサーファイター。「フィリピン人の特徴なんですけど、タイミングを外して打ってくる。集中力を持ち続けるのが大事になってくる」。フィリピンからスパーリングパートナーを呼び、スパーリングを繰り返してきた。
試合の会場はブリスベン市にあるサンコープ・スタジアム。かつて五郎丸歩も所属したスーパーラグビーのレッズの本拠地で、5万3千人収容。メインイベントはあのマニー・パッキャオの初防衛戦。セミファイナルで戦う帝里は「しっかり勝って、パッキャオの試合を観戦したい」と笑う。
帝里のもう一つの顔は、神戸市内のホテルの係長。試合の当日は同僚らが社員旅行をキャンセルし、応援に来てくれる。妻の摩由子さん(43)、長女のももこちゃん(6)、次女の美羽子ちゃん(3)も見守ってくれる。「職場のみなさんに元気をもらえる。家族には父としてカッコいいとこ見せたいですね」
14歳の時、同じ在日コリアン3世の徳山昌守さんが世界ボクシング評議会(WBC)スーパーフライ級王者になったのに憧れ、二つの拳で生きていくことを決めた。ボクシング人生のすべてをかけ、オーストラリアで勝負に出る。(篠原大輔)