日本老年医学会は20日、高齢者の高血圧患者の診療指針を初めて公表した。終末期には治療による状態の改善が期待できないとして、高血圧治療の中止を「積極的に検討する」と明記した。認知症や骨折など高齢者に多く見られる特徴と、高血圧治療の関係についても示した。
指針は、日本高血圧学会が2014年にまとめた高血圧治療指針の内容をふまえ、要介護や終末期の患者への治療のあり方を示した。介護施設の入所者の治療は「個別に判断する」とし、終末期の患者の治療は「降圧薬の中止も積極的に検討する」とした。
また、高齢者の高血圧治療が認知機能や、筋力や活動性が低下する「フレイル」への移行、骨折のリスク、夜間頻尿などに与える影響も検討した。認知機能については、「治療が悪化を抑制する可能性があるが、まだ一定の結論は得られていない」とした。
フレイルについては、悪化を抑える観点から高血圧治療を推奨した。一方、治療開始時には血圧低下によるふらつきなどから転倒リスクが上がる可能性があるとして注意を呼びかけた。さらに高血圧治療に使う利尿薬の種類によっては、骨折リスクや夜間頻尿に影響を与える可能性も指摘している。
日本老年医学会の楽木(らくぎ)宏実理事長は「高齢者は高血圧だけでなく、フレイルや認知症などほかの病気を抱えている。患者さん全体をみる診療に指針を役立ててほしい」と話している。
日本老年医学会は5月に日本糖尿病学会と合同で、65歳以上の糖尿病患者を対象にした診療指針を公表。今年度中に、脂質異常症や肥満の診療についても高齢者を対象にした指針を発表する予定だ。(南宏美)