たくさんの幹が集まった「子持ち桂」。標高530メートルの山中にある=豊田市大野瀬町
愛知県豊田市の稲武地区には、不思議な形をした巨木がある。たくさんの幹が集まったカツラと、根元がつながったスギとヒノキ。この形から、子宝を祈願して訪れる人が徐々に増えてきたため地元では、案内板を設置するなどしている。
長野県境にほど近い豊田市大野瀬町。国道153号から未舗装の道を300メートルほど行くと、「子持ち桂(かつら)」と記された案内板が立っている。そこから山道を10分ほど歩くと谷底にカツラの巨木がある。高さは約28メートル。大小約50本の幹が根元でつながって一つの束のように見える。周囲の長さは約18メートル。県の天然記念物にも指定されている。地元では、古くから子宝に恵まれるご利益があるとされ、敬われていたが地区外にはあまり知られていなかった。
ところがこの数年、週末になると空き地や道に車を置いて訪れる男女が目立って増え始めたという。県外ナンバーの車もあった。住民14世帯で作る「子持ち桂を守る会」では、山道に階段をつけたり、丸太の橋を置いたりした。地図付きの案内板もつけた。昨年度まで3年かけた大仕事で、手弁当だった。会長の安藤修さん(74)は「ネットで知られるようになったらしい。地元の宝に、せっかく遠くから来てもらえるのなら安全に歩けるようにしたかった。自然も満喫して欲しい」と話している。
豊田市稲武町の稲橋八幡神社には、スギの巨木がヒノキを抱きかかえ、根元でつながったように見える「合体木」がある。根元部分の周りの長さは約8メートル。スギの推定樹齢は700年とされる。
宮司の青木克夫さん(78)によると、子どもの時にはすでにこの形だったといい、木が並んで植えられた経緯はわからないという。「遠くから夫婦で参拝される方も増えてきているようです」
いなぶ観光協会では、「いずれはそれぞれに絵馬を掛ける場所を設けるなどして稲武の名所にしたい」と話している。
豊田市内では、このほか中金町にある奇岩「おはせの宮」が子宝に恵まれるご利益があるとされ、地元の住民が周囲の草刈りをするなど手入れをしている。祝詞(のりと)を上げている岩倉神社宮司の鈴本昭彦さん(74)は「寄付金が集まったら、迷わないよう道の入り口に案内板を設置したい」と話している。(臼井昭仁)