ほこらにまつってあった木彫りの神様の像を見つけた井手義信さん。付近では竹林がなぎ倒されていた=福岡県朝倉市杷木松末
九州北部豪雨で多くの人が亡くなった福岡県朝倉市の赤谷川流域には、今も土砂に埋め尽くされたままの集落がある。渓流を抱くのどかな山村は、家々へと続く道を失い、ちりぢりの避難生活が続く。「帰りたい。でも帰れない」。あの日から1カ月。再建への歩みを踏み出せずにいる。
九州豪雨、なお5人が行方不明 540人避難所生活
特集:九州北部豪雨
■「山の神様」見つかった
山を駆け下りるように流れる赤谷川の支流、乙石川沿いにある朝倉市杷木(はき)松末(ますえ)の石詰集落。井手義信さん(56)は、亡くなった井上輝雄さん(89)との約束を果たしたいと、先週末、誰もいない集落へ向かった。「山の神様」の無事を確認するためだ。
18世帯59人が暮らした集落では、4人が亡くなり、1人が行方不明のままだ。谷は、押し寄せた土砂と流木で埋め尽くされた。道路はなくなり、今も車は通れない。白っぽい土砂とゴロゴロした石が覆っている。
「山の神様」は、豊作を願い、集落の山のほこらにまつってあった。毎月1度、その年の担当がお参りし、お神酒を捧げてきた。
ほこらへ向かう道も一変していた。幅数十センチほどの小川が流れていた場所は、数メートルも深く地面を削り取った峡谷のように。崩れた斜面そばにあったほこらは流され、10メートル以上先で見つかった。まつってあった女神の木彫りの像もあった。
井手さんはその場に像を置いて、持参したお神酒を供えた。「良かった。約束通りできて」。今年のお参りの当番は亡くなった井上さんだったが、高齢だからと代わりをお願いされていた。「また来ないと」
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