又吉直樹さん=時津剛撮影
そこにコロボックルがいたら? 太古にできた数々の横穴が、埋葬用ではなく、背が低いとされた日本人の先住民族の住居だったなら、穴の一つ一つでいったいどんな営みが繰り広げられていたのか……。俳人の正岡子規もとり憑(つ)かれた空想の世界を、芥川賞作家の又吉直樹さんも旅しました。埼玉県吉見町に残る奇妙な横穴墓群の遺跡を歩いたときのことです。
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電車の車窓から夜の街を眺めていると、灯(あか)りの一つ一つに生活があるという当然のことに感動することがある。一人で暮らす部屋もあれば、家族が暮らす部屋もある。恋人同士が一緒に暮らしはじめたばかりの部屋もあるだろうし、大切な人が出ていったあとの部屋もあるだろう。
灯りの数だけ誰かがまだ起きていて、なにか活動をしているのだ。灯りが消えている部屋だって、誰かが眠っていたり、もの思いに耽(ふけ)っていたりするのだろう。
子供の頃、狭い部屋に家族五人が揃(そろ)って食事をとったことをたまに思い出す。父親が不在の時は母や姉達と落ち着いて話せるので、それはそれで心地良かったが、父もそこにいて家族全員が揃った時の、あの妙な安心感はなんだったのだろう?
父親はイカの刺し身を食べなが…