どことなくイタリア車っぽいインパネ
スズキがこのほど、主力小型車の「スイフト」にハイブリッド車(HV)を追加した。電動モーターによるHV機構と組み合わされるトランスミッションは、主流のCVT(無段変速機)ではなく、昔ながらのマニュアルトランスミッションを2ペダル化したAGS(オートギアシフト)。トヨタ自動車の「アクア」や日産自動車の「ノートe―POWER」といった人気HVがひしめくコンパクトハッチ市場で、最後発となる異色のHVを試した。
■「キビキビとした走りを実現」
スイフトはスズキの世界戦略車。軽快な走りに定評のある小型車で、インドや欧州でも人気がある。今年1月に全面改良された3代目(国内向けとしては4代目)は、骨格を全面刷新した新プラットフォーム「ハーテクト」を採用。軽量化と高剛性を両立させた乗り味の評価が高い。
そして、今年7月に満を持して投入されたのが、HV仕様の「スイフトHYBRID SG/SL」。ただ、スイフトにはすでに、オルタネーター(発電機)がエンジン駆動を補完的にアシストする低コストの「マイルドHV」仕様がすでに存在する。これに対して、このほど追加されたHVは、トヨタ・プリウスに代表されるような、駆動専用のモーターと大型のリチウムイオンバッテリーを積んだいわゆるフルHVシステムとなる。
カタログ燃費は、1リットル当たり27.4キロのマイルドHV(二輪駆動)を大きく上回る32.0キロ。アクアなどのライバルが軒並み30キロ台後半を稼ぐのに比べると凡庸な数字だが、マニュアルならではのダイレクトな加速感があるAGSを変速機に採用し、「スイフトの長所であるキビキビとした走りを実現した」(開発担当者)という。
試乗してみると、他のHVに比べて力強い加速が印象的。ハンドリングも軽快だ。ライバルのコンパクトHVの車重がことごとく1トンオーバーなのに対して、950キロ前後と軽い。クラッチ操作を油圧で自動化しただけのAGSは、構造がシンプルかつコンパクトで軽量だからだ。さらに、クラッチを切ってつなぐ間の空走をモーター駆動が補うため、シフトアップ時に車体が前につんのめるような不自然さがほぼ皆無なのも美点。HVに抵抗感があるマニュアル派の人にもすすめられそうだ。
■不明瞭な位置付けが難点
次世代エコカーの主役がいまだ見通せないなか、各メーカーはそれぞれ環境対応の研究開発を急ぐ。ただ、スズキはこの分野で突出した先進技術を持たない。そこで、HVとAGSという既存技術の組み合わせで、開発コストを抑えつつ双方の欠点を補完するという、一石二鳥で手堅いやり方を選んだ。
しかし、マイルドHVや低燃費ターボ車など既存上級グレードとの間に明確な性格分けや価格差がなく、その長所を顧客に伝えるには少々マニアックな説明を要するのも事実。さらに、業務提携で合意しているトヨタと環境対応分野で協業が始まれば、この自前のHV技術に固執する理由もなくなるかもしれない。
それでも、いかにもクルマ好きが喜びそうなこのスズキ版HVが埋もれてしまうのは惜しい。そこでたとえば、今秋にも発売が見込まれる本格スポーツ仕様の新型スイフトスポーツの2ペダル版にも採用してはどうだろう。高出力チューニングで、よりいっそう走らせて楽しいHVに進化させてほしい。(北林慎也)