小説「アナログ」について語るビートたけしさん=19日午後、東京都千代田区、川村直子撮影
お笑い界と映画界の巨匠が文学界に参入する。ビートたけしさん(70)が「こんな恋がしたい」という純愛を描いた小説「アナログ」を書き下ろした。著書は多数あるが「(詩集以外では)ゴーストライターではなく初めて自分で書いた」と告白。19日、東京都内で思いを語った。
「アナログ」は、30歳をすぎたインテリアデザイナーが、偶然出会った女性と恋に落ちる物語。連絡先も知らず、毎週決まった場所で会うことを頼りに、手探りで気持ちを確かめ合うが、アクシデントで離ればなれになってしまう。
近年、映画監督北野武としては「アウトレイジ」シリーズなど暴力的な映画で評価されているが「純愛にも興味があり、小説にしようと思った」のが動機という。後輩芸人の又吉直樹さんの芥川賞受賞にも奮起した。
映像は季節も舞台設定も人物も一瞬で表現できるが、「小説は言葉で想像させないといけない。漫才や映画と違い、時間も字数も制限がない。つらいよ」。
それでも小説に挑んだのは、「自分に負荷をかけたいから。チャンスがあればやらないと、新しいことをやれなくなるのが怖い」。
今回、知らない世界を描くため、音楽などの資料を集め、美術スタッフへの聞き取りを重ねた。創作ノートは4冊になった。
題名には自身の姿勢が投影されている。「スマートフォンは嫌い。IT産業が世界中の人間に手錠をかけたと思ってる。便利だけど、貧富の差が開いたことへの影響も感じる。デジタルを多用した映画はどれも似てくる。なるたけアナログで行きたい」
次は、サスペンス小説の構想も浮かんでいる。「直木賞を狙ってる。太宰治みたいに選考委員にお願いしてみようかな。林真理子さんとかね」
22日発売予定。新潮社刊。(編集委員・吉村千彰)