インタビューに答える内多勝康さん=2018年6月8日、東京都世田谷区、池田良撮影
「当たり前の生活がしたい」という思いに、社会の支援は届いているだろうか。「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちは全国に約1万8千人。家族は長時間のケアに追われ、学校に行けない子もいる。こうした子どもや家族が過ごす施設の責任者に転じた内多勝康さんが「社会を変えるチャンス」と語るのは、なぜなのか。
「もみじの家」ハウスマネージャーの内多勝康さん
1963年生まれ。86年にアナウンサーとしてNHK入局。「生活ほっとモーニング」キャスターなどを担当し、福祉を継続的に取材してきた。
――問題意識を抱いたきっかけは、NHKのアナウンサーだった5年前の取材だそうですね。
「医療的ケアが必要な子どもが退院した後、家族に社会の支援が届かないまま、特にお母さんがケアに追われて夜も眠れず、心身の疲労を蓄積させているというテーマの取材でした。新生児集中治療室(NICU)を取材すると、複雑な思いになりましたね」
――私も医療的ケア児を育てていますが、NICUは初めてわが子に対面する場です。モニターやチューブがついた姿をみて、受け入れられない親もいます。
「たくさんの小さな命が救われ、重篤な子どもの命も守られている。日本は新生児の死亡率が世界で最も低く、その最先端に触れて周産期・小児医療にリスペクトを感じました。一方で、退院後の子どもたちの医療的ケアの責任と重圧はすべて家族にのしかかってくる。退院を喜んでばかりもいられない。お母さんたちは『社会に放り出されたような気持ちになった』とおっしゃいます」
――「医療的ケア」という言葉は、当時知っていたのですか。
「知りませんでした。病院で行われる医療と区別して生まれた言葉と聞いていますが、一般的には使われていなかったと思います」
医療的ケア児
医療が進んで、体が小さく、重い病気の赤ちゃんの命を救えるようになった。その結果、チューブを使って栄養をとる経管栄養やたんの吸引といった医療的ケアを日常的に必要とする子どもが増え、この10年で約2倍になっている。
――内多さんが責任者に就いた東京・世田谷の「もみじの家」は、退院後の医療的ケア児や家族が過ごす短期入所施設です。
「母体である国立成育医療研究センターの役割は、高度先進医療を提供して子どもたちの命を救うことです。ただ、医師たちの間には、命を救うことが果たして本当に子どもの幸せにつながっているのかという葛藤があったそうです。退院した後は『知りません』でいいのかと」
「2年前にもみじの家が設立される際に、かつて取材でお世話になった関係者から『病院色を強くしたくない。責任者は外から招きたい』と声をかけられて。断ったらNHKで安定した人生は送れたと思うんですけど、やっぱりずっと後悔するだろうと、お受けしたんです」
――医療的ケア児をとりまく環…