北海道立高校の男子生徒が4年前に自殺したことをめぐり、母親が北海道を訴えている訴訟で、札幌地裁が道側に「学校が自殺後、生徒に実施したアンケート結果を証拠として提出せよ」と命じる決定をしていたことが分かった。道側は「提出すれば生徒の信頼を裏切り、同様の調査が困難になる」などと反対したが、湯川浩昭裁判長は「個人情報を隠すなどすれば、教育行政上の支障があるとは言えない」と判断した。決定がきっかけとなり、道側は遺族にアンケートを開示した。
子どもが自殺をした場合、同級生へのアンケートや学校側による調査の結果開示について遺族と行政が対立するケースは多い。原告側の秀嶋ゆかり弁護士は「全国的に見てもあまり例がない決定。同様の訴えを起こす人の励みになる」と話す。亡くなった生徒は吹奏楽部に所属し、母親は「顧問の激しい叱責(しっせき)が原因で自殺した」として、北海道に約8千万円の損害賠償を求めている。
提出を命じられたのは、学校が生徒の自殺翌日、吹奏楽部員25人に行ったアンケートの結果。札幌地裁は「秘密として保護に値する」としたうえで、遺族へ説明しなければならない学校が、事実関係を調べるためにアンケートを行った側面もあると指摘。「訴訟の審理に必要な範囲で、遺族に開示されることを望まない趣旨で生徒たちが回答したとは認められない」と判断した。
一方、自殺した生徒と他の部員の間でやりとりされ、教員が自殺前に受け取っていたメールは「提供者が特定されるおそれが大きい」などと、提出を命じなかった。
決定は7月に出された。道側は不服として抗告したが、秀嶋弁護士によると札幌高裁が地裁の判断を支持する見通しとなったため、今月20日になって、母親に開示した。名前など個人の特定につながる記述は黒塗りで、筆跡の特定を避けるため、原本がパソコンで打ち直されていた。
訴状によると、生徒は2013年1月、他の部員とのメールがきっかけでトラブルになった。顧問の男性教諭は生徒のみを指導し、生徒は部員全員の前で謝罪。同年3月にも叱責を受け、翌日に自殺をした。(峯俊一平)
高校生の自殺と、アンケートをめぐる流れ
2013年3月 高校1年の男子生徒(当時16)が自殺。翌日、高校が生徒の所属する吹奏楽部員にアンケート
2014年5月 生徒の母親が北海道にアンケートの開示を求めるも、非開示
2015年11月 母親が北海道の情報公開・個人情報保護審査会に異議を申し立て
2016年3月 母親が北海道に損害賠償を求めて札幌地裁に提訴
9月 審査会が「非開示は妥当」と答申
2017年2月 母親側が、訴訟でアンケートを証拠として提出するよう求める
7月 札幌地裁が提出を命じる決定。北海道は札幌高裁に抗告
11月 高裁が地裁の決定を支持する見通しとなり、北海道がアンケートを母親に開示