左がサンプル、右が実物。用意した20センチの物さしを超えるデカ盛りサイズ。「ぜひ、食べにきてください!」と山田啓二さん=奈良県大和郡山市、滝沢美穂子撮影
「まだまだ勝手に関西遺産」
奈良出身の記者が高校時代、どうしても越えられない山があった。期末テストでも、体育祭クラス対抗リレーでもない。それは、チキンカツの山だった。
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【特集】奈良を歩こう
奈良県大和郡山市のとんかつ店「とんまさ」。私の通った高校では「『とんまさ』にいく」とは、看板メニューの「若鶏かつ定食(大)」を食べることを意味した。完食すれば、友人たちに自慢できた。でも、実際に注文すると、そびえ立つチキンカツを前に心が折れ、ソフトボール部だった食欲全盛の記者でも歯が立たなかった。もう一度挑戦しようと、久しぶりに「とんまさ」に向かった。
近鉄郡山駅から歩いて10分ほどのところに店はある。先代の山田雅彦さん(75)の後を継ぎ、2012年から次男啓二さん(44)が店を切り盛りする。
昨年開業30周年を迎えたのを機にリニューアルしたが、ショーケースの貼り紙は変わらない。食品サンプルの隣に「サンプルを信じないでください」とある。店に入ると、会社員の中原嘉成さん(26)がチキンカツの山に挑んでいた。千切りキャベツの上に、九州産チキン500グラム(5枚分)のカツ。山の高さは20センチ超。半分ほど食べて中原さんは動きを止めた。「むりです」。持ち帰り用パックに詰めたカツは、その日の晩ご飯でも食べきれないと思われる量だった。
大盛り定食には先代の雅彦さんの思いが込められていた。啓二さんによれば、店は1986年、脱サラした雅彦さんと妻の和代さん(69)が開いた。終戦直後の食糧難を経験した雅彦さんは「若い人に、おなかいっぱい食べさせてあげたい」とボリュームにこだわった。「こんだけ出したらお腹いっぱいになるやろう」と自信をもって出したが、「まだ食べられるで」と言い放つお客さんがいた。その言葉を聞くと量を増やす。それを繰り返すうちに、「20年前くらいには今の形になりました」と啓二さん。完食率は10%未満。15%を超えたら量を増やす予定だが、その日はいつ来るのか。
ほかのメニューも全体的に量が…