ホンダが9月に発売した新型シビックが好調だ。月間販売目標は2千台だったが、すでに累計受注は1万2千台を超えたという。世界戦略車として車格が立派になって得たものと失ったものとは? 試乗で探った。
6年ぶりの国内販売
シビックは、1972年に国内発売したロングセラー小型車。当時の厳しい排ガス規制をクリアした低公害のCVCCエンジンが支持され、特に輸出先の北米で大人気となった。以後、中型セダンのアコードと並ぶホンダの二枚看板として、国内外でのシェア拡大に貢献。ただ、ミニバンや軽ワゴンに売れ筋がシフトした国内では、2011年に販売中止。海外向けと共通のモデルを導入する形で、限定販売を除くと6年ぶりに復活した。1.5リッター4気筒ターボエンジンの1グレードのみだが、ハッチバックはセダンよりも高出力の仕様となる。これとは別に、欧州のライバルとFF車世界最速を競う高性能版「タイプR」が用意される。
実車を眺めてみると、堂々としたサイズのおかげで車格以上に大きなクルマに見える。立派なフロントグリルも相まって迫力は十分。1800ミリの全幅は、最上級セダン「レジェンド」の旧モデルとほぼ同じだ。トレッドが拡大したおかげで、直進安定性は抜群。退屈な直線が続く新東名高速では、運転が退屈になるぐらい、静かで安定した走りを見せる。一方で、箱根の峠道に持ち出すと、対向車とのすれ違いに気を使うボディーの大きさを忘れさせるぐらいキビキビ走る。特に、タイプRのベース車両でもあるハッチバックは剛性も高く、山坂道を軽快に上り下りする。こういった道で本領発揮するMT版の試乗はかなわなかったが、加速感を大事に設計したというCVT版も、低回転からトルクがあふれるターボ過給のおかげで日常の速度域では不満はない。好調な受注は、この確かな商品力に裏打ちされたものだと思い知らされた。
シビックを名乗るべきか
ただ、優れた走行性能に満足した試乗を終えてからも、漠然とした違和感が消えない。きっと、このクルマが新しいアコードだったら、あらゆる意味で合点がいっただろう。貧乏だけれどライフスタイルにこだわった70~80年代の若者に愛された黄金期のシビックに比べて、このクルマは大きくて立派になりすぎた。「男前」を開発コンセプトに若返りを図ったとはいえ、シックで立派な内外装や税込み250万円超からという価格は、手ごろで親しみやすいキャラクターのかつてのシビックからは遠い存在だ。そこにどうしても寂しさを感じてしまう。
しかし、実用車としての小型ハッチバックは、廉価な量販車種のフィットがすでにその役割を担っている。ならば、今秋の東京モーターショーで市販前提でお披露目されたEVハッチバック「アーバンEVコンセプト」に、シビックと名付けて売ってはどうだろう。人なつっこいマスクの割に骨太で丈夫そうな造形、手ごろな大きさ、そしてパワートレーンの先進性……。低公害エンジンを積むエコカーの元祖とも言える初代シビックの復活劇としても、それがよりふさわしい気がした。(北林慎也)