高校野球と食事に関するシンポジウムで基調講演をする立命館大の海老久美子教授=1日午後4時17分、東京・有楽町の朝日ホール、飯塚晋一撮影 試合前には何を食べたらいい? 理想の「野球食」とは? 朝日新聞スポーツシンポジウム「高校野球と食事」(朝日新聞社主催、日本高校野球連盟後援、全国農業協同組合連合会協力)が1日、東京都千代田区の有楽町朝日ホールで開かれた。高校球児の体づくりのための食事の大切さを、元プロ野球選手の屋鋪(やしき)要さんや仁志敏久さん、東京・日大三高の小倉全由(まさよし)監督ら指導者や専門家らが語り合った。 動画もニュースもバーチャル高校野球 「どんぶり飯3杯」とは言いますが ――日大三高は選手の体の強さ、大きさが印象深く、食事にも秘密があると思います。助言していることは 小倉 学校の生徒食堂で野球部の食事をカロリー計算をして出してもらっています。いい体を作るには、夜ならどんぶり飯3杯ぐらい食べなきゃとは言います。でも個人で違うので3杯食べられない子には、3杯目は一口でもいいよ。それを一口、二口と自分から増やしていこう。いつも言うのは、ご飯をおいしく楽しく食べようということ。選手たちと一緒に食べているので、そんな雰囲気を作っています。 ――1970年代に高校生だった屋鋪さんはどうでしたか 屋鋪 実は中学から寮生活。昔の寮の食事って、朝はご飯1杯とみそ汁、目玉焼きぐらい。昼はチャーハンや焼きそば。夜は冷たいご飯をどんぶり1杯で鶏肉とか1~3品。夜食はインスタントラーメンを2食分ぐらい作っていました。 夜中にカップラーメン、そのつゆにご飯を… ――さらに10年以上たって昭和の終わりごろが仁志さんですが、変化はありましたか 仁志 屋鋪さんよりは、だいぶよくなっていると思います。高校は寮で出されるがままに食べていた。夜におなかがすいたらカップラーメンを食べた後に、そのつゆにご飯を入れて食べていました。 指導者自身も食べることが大事 ――小倉先生はどういう考えで生徒と一緒に食べていますか 小倉 最初はテレビもつけず、箸とどんぶりの音もさせずという、修行僧みたいな食事だった。結婚して女房に「それはおかしい。家ならお父さんとお母さんと、みんなでその日の出来事を話しながら、楽しく食べるんじゃないの」って言われたんです。それからはテレビもつけて、少々食べ方が汚くても、高校生らしく出されたものを遠慮なく食べる。おやじと選手みたいな間柄で冗談を言いながら。一緒に食べる雰囲気は女房に教わりました。 海老 毎日一緒にじゃなくても、選手たちが何を食べているのか、指導者自身も食べることが大事。選手たちからすると、監督が出してくれるものだから絶対的な信用がある。 若い子、食にあまり興味が無いと感じる ――屋鋪さんは少年野球を指導されていますが、選手と食事をともにする機会はありますか 屋鋪 夏や冬に合宿で一緒に食事すると、どういうものを食べているのか気になる。バイキングスタイルでも野菜は少しでカレーとご飯で終わってしまうとか、バランスが悪い。今の若い子は、食に対してあまり興味がないと感じます。 仁志 U―12では国際試合で初めて海外に行く子もかなりいて、フライドポテトを山盛り取る子もいる。食事は日本と同じように出てくると思っている子もいる。国の文化として食べられるもの、食べられないものもあるので、自分で探して食べなさいと伝えています。 ――自己管理について、小倉先生はどんな指導をされていますか 小倉 練習も食事も自分のため。栄養バランスを考えて、好き嫌いなく食べようと言います。そうすると、結構みんな、よく食べてくれます。 ――思うようにいかない生徒はいますか 小倉 少年野球の頃に、コーチから無理やりご飯を食べさせられて、食べることが怖くなった子がいました。「コーンフレークなら食べられる」と言っていたので、チョコレート味だとか色々集めて「これだったらどうだ」って言いました。こういうことがあるんだと勉強になりました。 「野球食」はお米の量に偏っている ――「野球食」はいま、量が独り歩きしているという面があるように感じます 海老 特にそれが、お米にちょっと偏っている。小学校ぐらいから、とにかく体重を増やそうとしていることが多い。選手によって成長曲線が違ってくるので、無理に小さい時から一気に太らせても、それが脂肪だと、逆にひざに負担になったりすることもあります。 小倉 強制でやると、食べられない子は隠して捨てる。ある程度は食べなきゃダメって言うけど、「これだけ食べなきゃ席は立たせない」という強制はダメ。体を動かして、おなかが減ってご飯をおいしく食べる。 屋鋪 食べる量には個人で違いがあると思うので、おいしく食べられる量だけ食べる。それが一番だと思います。 練習も食事も腹八分目 仁志 腹八分目という言い方がありますけれど、野球の練習でも、毎日目いっぱいやると限界がある。食事もそうですけど、次のことをやれる余力をある程度残しておいた方が次に動ける。適度という言葉が必要だと思います。 海老 もう一つおいしくするポイントは地域愛。その地域で育って、地域の代表として戦っていくので、その土地のものを見ていく、感じていく。例えば地元のおいしいお豆腐屋さんやおにぎり屋さんが地域食になっていくことがあると思うんです。「こんなとこに、こんなおいしいものあったよ」というような情報の投げかけ方も「野球食」の一つと思っています。 《パネルディスカッションの参加者(敬称略)》 屋鋪(やしき)要 元プロ野球選手、少年軟式野球国際交流協会理事 仁志敏久 元プロ野球選手、野球日本代表U―12監督 小倉全由(まさよし) 日大三高(東京)硬式野球部監督 海老久美子 立命館大学スポーツ健康科学部教授 安藤嘉浩 朝日新聞編集委員(コーディネーター) ◇ 「たんぱく質、朝から補給を」立命館大の海老教授 最初にテーマとしたいのがエネルギーです。エネルギー源となるのが糖質・脂質・たんぱく質になります。特に主役となるのは、糖質と脂肪です。 糖質と脂質の関係は、ロウソクでよく例えられます。芯の部分が糖質で、ロウが脂肪。脂肪燃焼をしっかり行うなら糖質をずっと残しておかなければいけません。糖質は体の中でため込んでおくには限りがあるので、私たちは1日の中で分けて糖質を取ります。糖質が足りなくなると、本来は体の材料として役立てたいたんぱく質がエネルギーとして使われてしまいます。 エネルギーが取れた上で次に大切なことは、何でエネルギーのバランスを取っていくのか。体の材料になるのはたんぱく質。ご飯にもある程度たんぱく質は含まれているので、食品の食べ合わせで補い合うことで質を高めていくことができます。 大豆はお米との組み合わせで、お米のたんぱく質の質を上げることができます。簡単にいえば納豆ご飯でもいい。炊き込みご飯にハムやチーズを入れてもいいです。良質たんぱく質といわれているものと一緒に炊き込みご飯を作れば、ご飯のたんぱく質も有効活用できます。 あるいは汁物の中に、米粉でだんご汁を作ります。その中に緑黄色野菜や青菜でビタミン、ミネラル分を補います。そして豆製品の中でも厚揚げとかがんもどきは鉄やたんぱく質、カルシウムを取るのに有効。コストパフォーマンスが非常に高いので、これらを組み合わせる工夫もできます。 食事の中で気をつけたいのは朝ご飯です。昼や夜は食べられても、朝ご飯に隙ができる選手が多いように思います。体だけではなく、頭のエネルギー補給にもなります。朝からしっかりと体温を上昇させるために、たんぱく質もしっかり含まれた食事を取るということ。たんぱく質を体の材料として生かすために朝からしっかり補給しましょう。朝ご飯で食べ切れなかったものは、間食や補食で取っていく工夫もできると思います。 活躍するために 試合前日の「おすすめ食」はこれだ 試合前日の基本は、脂肪を燃焼させるために糖質を取ること。糖質を燃やすためにビタミンB群、特にB1(豚肉や青菜類など)が必要になるので、この組み合わせも大切です。例えばキーマカレーを葉っぱで包んで食べるなどは夏場の策として当たりだったなと思います。食べ慣れないもの、胃腸に負担がかかる可能性のあるものは避けてください。 当日は、食べ慣れている食事であれば2、3時間前に食べれば、野球は十分だと思います。糖質中心の軽食を取るなら1時間前、取れない場合は試合直前に吸収の早いゼリーなどのエネルギー補給をしましょう。水分補給はなるべく早めにこまめに。大事な試合で、食べ慣れないものは危険なので、あらかじめ試しておきましょう。 試合後の基本は速やかな糖質補給とともに、失ったグリコーゲンを回復するために一緒にたんぱく質やアミノ酸を取ったほうがいいです。フルーツヨーグルトでもいいですし、おにぎりなら中に少したんぱく質源が入っているもので調整してもいいと思います。 帰宅後はエネルギー源中心。たんぱく質やビタミン、ミネラルなどがしっかりと取れるような工夫が必要と思っています。主食以外のものを少し多めに取るということになります。 おにぎりをマネジャーさんが作るときには「愛情いっぱい菌いっぱい」になってしまわないように。熱いうちになるべく手の菌がつかないように握り、1回冷まして表面の水分を飛ばすことが大切です。 |
高校球児は何を食べるべきか? 元プロ選手や教授が語る
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