ベンチャー企業が「ビットコイン」などの仮想通貨で事業資金を得る「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」という手法が日本でも動き始めた。低コストで世界中から資金を集められるのが特徴だ。ただ、詐欺的な手口も一部で出ており、金融庁は注意喚起を始めた。
安昌浩(やすまさひろ)さん(29)は6月、信頼性の高い記事やブログを集めたメディアサイトを作ろうと、ベンチャー企業「アリス」を設立した。虚偽のネット記事にうんざりする人は多く、ニーズがあると読んだ。
資金調達に使ったのがICOだ。新株にあたる「トークン」と呼ばれる電子的な証票を投資家らに仮想通貨で買ってもらう。企業は仮想通貨を円やドルなどに換金して事業に使う。投資家は企業のサービスを割安に受けられるなどのメリットがある。
安さんらは今夏に事業計画をネットで公表し、投資家からの質問に応じた。9月からの1カ月で約100カ国から4・3億円が集まった。「実績や資金がなくてもビジネスを始められる。日本のベンチャーに勇気を与えられたのでは」と安さんは語る。
ネットでお金を集める「クラウドファンディング(CF)」に似ているが、仮想通貨によるICOは、世界中から低コストで送金でき、国境を越えてお金を集めやすいメリットがある。株式上場に比べると、規制がなく、間に入る証券会社に払うコストもない。ICOですでに100億円超を調達した例も出ている。
ただ、規制がない「自由」は、「リスク」と隣り合わせだ。
プロジェクトが実施されなかったり、商品やサービスが提供されなかったりするリスクがあります――。
金融庁は10月末、ICO取引に注意を促す文書を公表した。集めたお金を持ち逃げする例が海外で増え、国内でも懸念が出ている。ICOを検討する企業には、「刑事罰の対象になる場合がある」と警告した。
米調査会社チェーンアリシスによると、仮想通貨イーサリアムを使うICOで今年調達された16億ドル(1792億円)のうち、1割にあたる1・5億ドル(168億円)の行方が分からないという。
中国や韓国の金融当局はICOの全面的な禁止を決定。米証券取引委員会は、詐欺の疑いのあるICOの告発を始めた。英金融当局は「全損の覚悟を」と投資家に警告した。
仮想通貨やICOといった新技術の普及をめざすブロックチェーン推進協会の平野洋一郎代表理事は「ICO実施者の信用情報を業界として共有し、不適切なICOの排除を支援するような仕組みを検討したい」と話す。(榊原謙)