「逃げるは恥だが役に立つ」から (C)海野つなみ/講談社
生活面の新年連載「家族って」で、やり場のない思いを抱える「専業主婦」について取り上げました。記事の掲載後、「専業主婦は活躍していますか」という問いかけに、読者から多くの声が集まりました。
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国から「働け」おかしい
投稿が多かったのは、「専業主婦も活躍している」という声でした。一方、外で働かないことへの疑問も。環境づくりや選択の自由を求める意見も寄せられました。
●「フルタイムで働いていると帰宅後、すごく忙しい。家族のために『今日はこんな料理を』『あの部屋を掃除しよう』という発想になれないと思います。家を整えて家族を迎えるのも一つの大切な仕事。専業主婦の役割は十分にあると思います」(東京都・40代女性)
●「ほぼ専業主婦の妻は、レシピを研究して野菜を育て、暦を意識して家を飾ります。複数の仕事を休みなく続け、平均的なサラリーマンよりはるかにクリエーティブです。稼ぎはなくても、生み出している価値は計り知れません。『女性活躍』の推進は、金銭でしか価値を測れない精神の表れ。マスコミの責任もあると思います」(愛知県・40代男性)
●「『バリキャリ』で20代を過ごし、結婚を機に専業主婦に。退職したことに悔いはありません。夫が料理を喜んだり、私もヨガに通ったり、ストレスフルな毎日から解放され、夫婦関係も落ち着きました。外で給料を稼ぐことだけが輝くことじゃない。働く男性はみな輝いているのですか?」(大阪府・30代女性)
●「働く主婦も経験しましたが、専業主婦がいるから成り立っていることは多数あります。PTAや民生委員などの地域の活動にも専業主婦が駆り出されます。介護、家事も待っています。女性活躍でみんなが外に出たら、困ることがたくさん出てくるのでは」(東京都・40代女性)
●「私はできれば家事に専念したい。何度か勤めに出ましたが、晴れた日に布団が干せず、毎日掃除機をかけられないことが、ストレスになります。でもなぜか罪悪感も。『健康なのにのんびり家にいる』と思われると肩身の狭い思いがします。専業主婦だって十分に働いています……が、なかなか大きな声で言えません」(奈良県・40代女性)
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●「就職当時、多くの女友達は『結婚したら退職』と覚書に書かされた。会社も社会も政治も『専業主婦』を望んでいたのです。なのに『労働力不足だから』と急に『女も働け!輝け!』。変わり身の早さにあきれます。人はそれぞれ。自然に生きられる場所を見つければいいと思います」(埼玉県・50代女性)
●「海外赴任中の夫に同行している『今だけ専業主婦』です。この生き方を続けるのは私には難しいと感じます。家族以外から必要とされることはほぼなくなり、仕事で得ていた『ありがとう』もなくなる。子どもとの公園巡りは今だけの幸せな時間ですが、私のキャリアでも大切な時間。その間に社会や会社、夫は前に前に進みます。一度きりの人生に社会で自分の力を試さないのは、もったいない。フルタイムで復職予定です。子どもたちには自分で生きる力をつけ、未来を切りひらいてほしいです」(海外在住・30代女性)
●「フルで働く私は家事と仕事にメリハリをつけ、クリスマスに子どもとケーキも作ります。夫が仕事で悩んだり退職して勉強し直したいと思ったりした時に、経済的にも支えて初めて、家族を守ることができるのでは?」(滋賀県・30代女性)
●「子ども3人を育てるほぼ専業主婦です。子育ては素晴らしい仕事。でも時折、なんとも言えない気持ちになる。小さい子がいると、できないことは多い。『専業主婦は活躍する女性ではない』が私の結論です。自分のことをすべて封印し、夫の給料なしでは生きていけない存在。家族のためと思ってやっても評価されません。行政の支援も少ないです」(東京都・40代女性)
●「夫の帰宅は遅く、家事はほぼ私1人。夫に食べさせてもらうのに抵抗があるし、育児ノイローゼも経験し、自ら社会に出ました。専業主婦とワーママ、選ぶのは個人。国に働けと言われるのも、働きたいのに子どもがいるため拒まれるのも、おかしい。社会は母親が働く体制が整っていません。すべての女性に選択の自由をください」(兵庫県・30代女性)
●「1歳児の父です。私は午後8時半から10時ごろ帰宅し、共働きの妻と家事をやりくり。毎日疲労こんぱいです。女性の社会進出が難しいのは、女性の働く環境が整っていないためでなく、男性が遅くまで働く環境が改善されないからと、いつも思います」(神奈川県・30代男性)
●「我が子と仕事をてんびんにかけ、育児を選ばざるを得なかった専業主婦が多すぎる。仕事との両立は、頼れる実家かシッターを雇える経済状況がなければ、母親がワンオペ育児で回すのが関の山。男性の育休を推奨し、残業が美徳でなく定時で帰るのが有能と評価して。女性が育児と仕事への関わり方を選ぶ社会には、男性の意識改革と育児参加が不可欠です」(兵庫県・30代女性)
価値観の違い 認め合えば楽
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の原作者 海野つなみさん(47)
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「逃げるは恥だが役に立つ」では、家事を仕事ととらえて契約結婚をする話を描きました。家事は見えづらいけど、仕事にすれば労力や作業量を客観視できると思いました。
初めは共感する意見が多かったのですが、2人が恋愛関係になって結婚を決めた途端、「結婚するのに家事でお金をもらうなんてがめつい」という批判が出てきました。
家族の形に正解はないと思うんです。ただ、誰かが得をして誰かが損をしていると思っている状態は良くない。支え合ってバランスを取り、家族内で最適化が図れればいいと思います。
そもそも専業主婦は、「輝く女性」でいないといけないのでしょうか。一日中ジャージー姿でも、少し焦げたチャーハンが食卓に並んでもいい。周りの価値観にとらわれるときつい。大事なのは、自分が楽しいかどうかではないでしょうか。
主婦と働いている女性という対立構図もおかしい。どちらかが上というのはありません。価値観の違いを認め合えばいいと思います。違いを認めると、自分も楽になります。社会が多様化しているんだから、いろんな形があっていいんです。
共働き 長寿社会の生き方に
「専業主婦は2億円損をする」の著者 橘玲さん
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大卒の女性が60歳までフルタイムで働いた場合の平均的な生涯収入は、退職金を除いて2億円とされています。専業主婦を望む若い女性が多いと聞き、これだけの収入を手放すのはもったいないと思いました。
「こんなに稼げるはずがない」「好きでやってるわけじゃない」。当初の反響は99%が怒りの声で、そのほとんどが専業主婦からでした。
でも、今や人生100年。国の借金は1千兆円を超え、夫の年金だけで夫婦の老後を支えるモデルは維持できません。保守の安倍政権ですら「女性活躍推進」を掲げる時代です。配偶者控除など主婦の特権とされる制度もなくなっていくでしょう。共働きで長く稼ぐのが、長寿社会の新しい生き方になるはずです。
今、子育てしながら働くことは女性にとって大きな負担でしょう。でも、世の中は理不尽であることを前提として、賢く生きていく戦略を立てて欲しい。家事で培ったスキルを生かす仕事は必ずあります。
私は24歳で長男を授かり、結婚しました。当時の年収は120万円ほど。共働きでなくては生きていけませんでした。そのあと父子家庭にもなりましたが、子育ては楽しく、仕事も面白かった。両方やって良かったと思います。
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私には4歳の双子男児と2歳の女児がいます。産休と育休をとって約3年半を専業主婦として過ごし、昨春、復職しました。主婦も働く女性も尊くて、過酷だと感じています。
休職中は社会とつながる余裕もなく、疎外感を抱くことがありました。今回、家庭内でも胸の内を明かせないという投稿が、たくさん寄せられました。近しい人にも理解してもらえないという思いが、不安や焦りを助長しているように感じました。一方、本音を伝えられず、悩んでいる夫側の声もありました。
すぐに制度を変えられなくても、身近な人の言葉に耳を傾けることは今日からでも出来ます。置かれた環境下でそれぞれが望む選択ができ、そこに価値を見いだせる社会になるよう願っています。(本間沙織)
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〈主婦論争〉 1950~70年代、3度にわたって繰り広げられた。初めは55年。評論家の石垣綾子が「(女性は)主婦という第二の職業に飽き足らなくなった」とし、家庭と仕事との両立を主張した。
60年には経済学者らが家事の経済価値を議論した。高度成長が始まり、企業が終身雇用する会社員を中心とした産業構造へ転換した時期。社会保障制度などでは「会社員の夫と専業主婦、子ども2人」がモデルとなった。月刊誌「主婦の友」は64年に「結婚したら 主婦の友」をキャッチフレーズにする。
女性運動が広まった72年には、生産労働に巻き込まれない主婦にこそ価値があるとする第3次の主婦論争が起こった。だが86年に男女雇用機会均等法が施行され、共働き世帯は急増していく。92年には共働き世帯が専業主婦世帯を上回った。
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